第2章 ようこそ、クローバー ②初めてのイベント参加-3
2.2.3 広がる世界
会場を出たとき、足が鉛みたいに重かった。
でも、その重さは嫌じゃない。
全身を動かしきったあとの疲労感に、じんわりした達成感が混じっていた。
「ふぅー……終わったな」
吐き出した息に、夜風が心地よく混ざる。
駅へ向かう道は、イベント帰りの人たちでまだ賑やかだった。
派手な衣装をそのまま着ている人もいれば、キャリーケースを引きずっている人もいる。
隣を歩く亜美が、俺の横顔をのぞきこんでにやっとした。
「ねえ、どうだった? 初イベント」
「……疲れた」
素直に答えると、彼女は声をあげて笑った。
「そりゃそうだ。何時間もポーズ取らされてたんだから」
俺もつられて苦笑する。
けど、次の瞬間、胸の奥から勝手に言葉がこぼれた。
「――でも、またやりたい」
言ってから、自分で驚いた。
本当に自然に、抑えきれないみたいに出てしまった言葉だった。
「ほら、出た」
亜美がすかさず俺の肩を小突く。
「絶対そう言うと思ってたもん。顔がもう“楽しい”って言ってたし」
「……そんなにわかりやすかった?」
「うん。わかりやすすぎ」
からかわれながらも、妙に悪くない気分だった。
***
それからの俺は、気づけばサークルに顔を出す回数が増えていた。
小さなイベント、学内の展示、練習会。
「ちょっと手伝って」と言われれば自然に立ち上がっていたし、衣装合わせやポーズの練習にも積極的に参加するようになった。
「智也、剣の角度もうちょい下!」
「おー、いい表情! 写真映えしてる!」
仲間たちの声が飛ぶたびに、体が反応するようになっていった。
最初はぎこちなかった笑顔やポーズも、繰り返すうちに板についてきた。
写真を見返すと――
そこには、前よりも自然にキャラの顔をしている俺がいた。
「なかなかハマってきたじゃん」
誰かがそう言ったとき、くすぐったいような、でも誇らしいような気持ちが胸を満たした。
俺はもう「ただ役割をこなしている」んじゃない。
自分が楽しんで、そこに立っている。
それがはっきりとわかるようになっていた。
***
ある日の練習で、亜美が何気なく口にした。
「ねえ、智也ってさ……女の子キャラも似合うと思うんだよね」
「は?」
思わず聞き返すと、彼女は本気とも冗談ともつかない笑顔を浮かべていた。
「まあ、いずれ挑戦してみればいいじゃん。絶対ウケるって」
冗談だと思いたかった。
けど、その言葉が心の奥で、妙に長く残った。
――もし、できるなら。
考えてはいけないようなことを、俺はその日から時々思い出すようになっていた。
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