第2章 ようこそ、クローバー ②初めてのイベント参加-2
2.2.2 歓声とシャッター音
会場の扉を抜けた瞬間、空気ががらりと変わった。
熱気とざわめきが押し寄せる。
人の波、色とりどりの衣装、フラッシュ。
「――かっこいい!」
どこからか声が飛んできた。
一瞬、自分に向けられたとは思えなくて足が止まる。
けれど、次の瞬間には視線が一斉にこちらに集まった。
「写真、いいですか!」
「立ち止まってくださーい!」
次々とカメラが向けられる。
レンズの黒い穴が何十も、俺に焦点を合わせている。
心臓が喉までせり上がり、呼吸が浅くなる。
「え、俺……?」
思わず小声でつぶやくと、近くのコスプレイヤーが笑いながら親指を立ててきた。
「めっちゃ似合ってるよ!」
シャッターの音がぱしゃ、ぱしゃ、と途切れず響く。
最初はぎこちなく剣を持ち上げるだけだった。
腕がこわばり、角度もぎしぎしと不自然だ。
「剣、こっちに構えてください!」
「そうそう、もうちょっと斜めに――!」
カメラマンたちの声に従って動く。
恐る恐るポーズを変えるたびに「いいね!」「最高!」と歓声が返ってくる。
その声に押されるように、少しずつ体がほぐれていった。
剣を振りかざし、腰を落とし、視線を鋭く前に向ける。
すると――
自分でも驚くくらい自然に、キャラになりきれていた。
ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃ。
シャッター音が雨のように降り注ぐ。
光が瞬くたび、胸の奥が熱を帯びていく。
――これが、楽しい。
不意にそう思った。
怖さよりも、心地よさが勝っていた。
自分が誰かに見られている、その事実がこんなにも嬉しいなんて。
「……智也!」
声に振り向くと、別キャラに扮した亜美が走り寄ってきた。
鮮やかな衣装をひらめかせ、にかっと笑う。
「ほら、やっぱりハマってるじゃん!」
ぽん、と肩を叩かれた瞬間、張りつめていたものがふっと抜けた。
俺は思わず笑ってしまう。
「……かもね」
会場のざわめきとシャッター音の中、俺の笑い声が溶けていった。
それは、これまでの人生で、ほとんど記憶にないほど、心からの笑いだった。
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