第2章 ようこそ、クローバー ①初めての仲間-2
2.1.2 裏方の洗礼
「よし、じゃあ片付け始めるよー!」
リーダー格っぽい男子の声で、部室が一気に慌ただしくなった。
気づけば床のあちこちに、衣装やらカツラやら小道具やらが散乱している。
キャリーケースを開けたままの人、カメラのデータをパソコンに移す人、笑いながら衣装をたたむ人。
さっきまでののんびりした空気とは一転して、まるで仕事場のような熱気に包まれた。
「智也くん、こっちお願い」
声をかけてきたのは、細身の先輩だった。
彼はラックを指差して、腕に衣装を抱えている。
「これ、サイズ順に戻してって」
「は、はい」
受け取った瞬間、ずしりと重みが腕にのしかかる。
……布の塊だと思って甘く見てたけど、これだけ集まると相当な重量だ。
「それ、意外と重いでしょ?」
背後から亜美がにやっと笑う。
「毎回これ持ち歩いてるの、うちら」
「……体育会系の部活かよ」
思わずぼそっと漏らすと、近くにいた誰かがすかさず拾った。
「お、今いいツッコミしたじゃん!」
「新入りにしては上出来!」
わっと笑い声が広がる。
俺はただ曖昧に笑うしかなかった。
ラックに衣装を掛けていくと、一着一着に細かいタグや番号がついているのに気づいた。
「……これ、全部管理してるんですか?」
俺がつぶやくと、横で手を動かしていた先輩が鼻で笑った。
「当たり前だろ。どれだけ金かかってると思ってんの?」
「ひとつなくしたら修羅場だからねー」
「この前なんかボタン一個取れただけで騒ぎになったし」
「ひえ……」
俺は小さく声を漏らした。
冗談めかして言っているのに、どこか本気の緊張感が混じっている。
その空気に、俺は背筋を正した。
「はい次これ。智也くん、メモリカードもパソコンに差し込んでー」
「え、俺がですか」
「大丈夫大丈夫、挿すだけ」
渡された小さなケースを開けて、慎重にカードを抜き取る。
パソコンのスロットに差し込むと、カチリと軽い音がした。
「おっけー! 新人、もう即戦力!」
「いや、まだ挿しただけなんですけど……」
苦笑すると、周りから「謙虚~」と茶化し混じりの声が上がった。
画面には次々と撮ったばかりの写真が表示されていく。
華やかな衣装、鮮やかなウィッグ、笑顔でポーズを決めるメンバーたち。
そのどれもが眩しくて、俺はつい見入ってしまった。
「ねえねえ、どれが一番よく撮れてる?」
隣にいた女子が画面を覗き込みながら訊いてくる。
「え、えっと……この辺ですかね」
「おー、やっぱ目の付け所がいいじゃん」
「智也くん、カメラ係向いてるんじゃない?」
みんなが軽口を叩き合う中で、俺はただ曖昧に笑う。
楽しそうなやりとりに入り込めない自分を、どこか遠くから見ているみたいだった。
――でも、嫌じゃない。
むしろ、その輪の中で確かに役割を持って動いている自分に気づいて、胸の奥が少し温かくなった。
「裏方も大事な役割だよ」
作業の合間、亜美がぽつりと俺に囁いた。
「表に立つのも楽しいけど、支えてくれる人がいないと成り立たないんだ」
「……そうなんだな」
俺は小さく頷いた。
重い衣装をラックに戻す手も、写真を仕分ける作業も、全部が本物の舞台を支えている。
さっきまでの小さな疎外感は、いつの間にか薄れていた。
俺はようやく気づいたんだ。
ここは、遊び半分なんかじゃない。
真剣で――
だからこそ楽しい場所なんだ。
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