第2章 ようこそ、クローバー ①初めての仲間-1


2.1.1 歓迎の拍手


「――それじゃあ、改めて。今日からクローバーに正式加入した辻村智也くん!」


ぱちぱち、と小さな拍手が部屋に響いた。

狭い部室に十人足らずの拍手なのに、やけに大きく聞こえる。


「よろしくお願いします……」


俺はぺこりと頭を下げた。


「硬いなぁ!」 


すかさず誰かが突っ込む。


「そうそう、ここは楽しくやるとこだからさ」


「ほら、笑って笑って」


次々に声が飛んでくる。

俺は思わず口元を引きつらせて笑った。


ぎこちないけど、それでいいらしい。


「で、智也くん。趣味とかあるの?」


「……趣味?」


急に問われて、少し固まる。


ゲームもアニメも、人並みには触れてるけど――語れるほどじゃない。

無難に返そうと、俺は言葉を選んだ。


「ええと……まあ、映画とか、よく観ます」


「お、映画! 洋画? 邦画?」


「最近なに観た?」


矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

俺は正直に、こないだ観た無難なヒューマンドラマのタイトルを口にした。


「あー、あれ泣けるよね!」


「わかるわかる、あのシーン!」


予想外に食いつかれて、笑い声が弾けた。

俺が適当に言ったことが、どうやら共感を呼んだらしい。


「……あはは」


俺もつられて笑う。


なんだ、案外大丈夫じゃん――

そう思ったとき。


「仲間になったんだから、気楽にね」


背中をぽん、と軽く叩かれた。

振り向けば亜美がにこっと笑っていた。


肩に残る感触と、彼女の笑顔で、張りつめていた緊張がすっと溶ける。


「……ああ」


短く返すしかできなかったけど、その一言に自分でも驚くくらい素直な気持ちが混じっていた。


自己紹介が一通り終わると、話題は自然に別の方向へ流れていった。


コスプレイベントの反省とか、次の企画とか。


部屋の空気は和気あいあいとしていて、笑い声が絶えない。



だけど――

俺はまだ完全には輪に入りきれない。


みんなが交わす冗談のテンポに、反応が遅れて苦笑いするだけ。

笑ってはいるけど、少し外側から眺めているような気分だった。


「まあ最初は裏方から慣れるといいよ」


メンバーの一人が、気を遣うように声をかけてくれた。


「衣装の運搬とか、写真撮影とか。そういうのも大事な仕事だから」


「……はい」


俺はほっとして返事をした。

いきなりステージに立つわけじゃなくていい。


まずは、この輪の端っこに座っているだけでもいい。


鏡の中で見た「変わった自分」がまだ胸の奥に残っていた。


そして今、この拍手と笑い声の中で――

「もう逃げられないな」

そんな苦笑が、心のどこかで浮かんだ。


でも、不思議と嫌じゃなかった。

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