エピローグ
僕は夜道を歩きながら、ポケットに手を入れる。指先に触れた箱。立ち止まり、一本取り出しかけて、やめた。
箱ごと取り出し、ごみ箱へ放り込む。カラン、と乾いた音。空っぽになったポケットを確かめ、深く息を吸う。煙のない夜空を見上げた瞬間、ポケットの奥でスマートフォンが震えた。画面には、待ってくれている恋人の名前。
「……ああ、帰るところだよ」
短く答えたあと、少しだけ間を置いて続けた。
「そうだ、ひとつ言わなきゃ。……煙草、やめるよ」
受話口の向こうで、小さく笑う声がした。その声が不思議なほど心に沁みた。通話を切り、再び歩き出す。——耳の奥に、彼女の声が蘇る。
「好きになるのも、離れるのも、煙と同じ。ふっと出て、ふっと消える」
その言葉を思い出した。
胸の奥で長い煙がようやく晴れていく気がした。
燻らす恋 @nyanp1101
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます