再会
十数年後、同窓会の会場は、懐かしい笑い声とグラスの音で満ちていた。かつて同じ机を並べた顔ぶれが、少し大人びて、それぞれの人生を背負って笑っている。僕もその輪に混じっていたけれど、視線は何度も同じ場所を探していた。やがて、彼女の姿を見つけた。
人だかりの中で穏やかに微笑む彼女は、昔と同じように人の中心にいた。だれからも愛され、手の届かない存在。そして落ち着きと気品、そして淡い距離感――大人になった彼女がそこにいた。
自分から話しかける勇気もなく、喫煙室に逃げ込んだ。
喫煙室のドアが閉じた瞬間、世界がひとつ分だけ狭くなる。外のざわめきはガラス越しに白くぼやけ、人工的な排気音だけが微かに響いている。
僕は壁に寄りかかりながらタバコに火をつけた。その時、喫煙室のドアが開いた。
「よっ!ひさしぶり」
彼女だった。
驚きはしない。来ると分かっていた。むしろ期待していた。
「ひさしぶり。あの時以来かな」
「…うん。あの時の約束覚えてる?」
僕は一本彼女にタバコを手渡す。
彼女はタバコに火をつけ目を閉じたまま、ゆっくりタバコを燻らす。白い煙がふわりと宙に漂い――その流れの向こうに、俺は見てしまった。彼女の左手。タバコを持った指の下、薬指にはめられた銀色の輪。
たったそれだけで、世界が変わる音がした。鼓動が耳鳴りみたいに響くのに、声が出せない。
彼女は何も言わなかった。僕の視線から逃げもしないまま、ただ黙って煙を燻らせ続ける。
沈黙だけが、会話より雄弁だった。
結局、一本を吸い終えるまで、僕たちは一言も言葉を交わさなかった。
彼女は灰皿に吸殻を置き、扉の方へ歩き出す。振り返らないと思ったのに、なぜか途中で小さく振り返った。
表情は、読めない。
けれど――あの時よりも、ずっと遠かった。
そして、何も言わずに出ていった。
静寂が戻る。
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