6
教室の外では雨がまだ降り続いている。窓の向こうの景色はぼんやりとして、屋根や樹木の輪郭が水に溶けているみたいだ。私はそれを見ながら、相合傘のことを思い出す。小さな傘の下、肩と肩が触れそうで、でも触れない距離。それが妙に心地よくて、胸の奥で何かが震えたのを覚えている。
ペンを置いて机に手をつく。指先に伝わる木の冷たさと、湿った空気の重さが、私の意識を今ここに引き戻す。隣の席の空気には微かな温度が残っていて、それはまるでさっきまで誰かがいたことを示す名残のようだ。声も音もすべて溶け込み、けれどその痕跡は、私の中で小さな光として瞬いている。
ふと、笑い声を思い出す。あの笑い声は、傘の向こう側から届いた波のように、薄く、揺れていた。私に向けられたのか、それとも偶然の重なりだったのか――それを確かめる術はない。でも、問いかける必要もなかった。声は、ただ存在していた。それだけ。
教室の空気がまた動く。遠くで鉛筆が床に落ちる音、紙のめくれる音、窓の外で雨粒が跳ねる音。すべてが私の意識の中で絡み合い、ひとつの流れを作る。私はその流れに身を任せ、文字に意味を探すのではなく、感覚そのものを追いかける。光、音、匂い、温度――それが……。
相合傘のあの温かさ、笑い声の揺らぎ、雨の冷たさと湿気。
私はノートを閉じ、窓の外の雨を見つめる。光が雲の隙間から差し込み、教室の床に斑点のような色を落とす。その光の揺らぎに目を細めながら、私は思う――今この瞬間、私の心もまた、揺れながらも確かにここにあるのだ、と。
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