第15話 春の守護祭と影のゆらぎ

Ⅰ 光の報せと影のざわめき


 朝の学園は、うるさいくらいに明るかった。

 掲示板の角が丸い紙でびっしりと埋まり、風が通るたび紙がぱらぱらと挨拶する。貼り紙の中ほどに、急ごしらえの速報紙。


『臨界点筆頭・斎宮透花、北の断層を収束!』

『“廉式”裏面吸音、暫定規格へ——祠は眠る』

『撫でる術は暴力か優しさか? 識者が語る』


 廊下を進むと、生徒たちが半分走りながら透花の周りに渦をつくる。

 「透花先輩、ニュース観ました!」「サイン……じゃなくて護符ください!」「唐揚げ派? 竜田派?」

 彼女は笑って牛乳パックを掲げた。「白い派!」

 笑いが弾ける。笑いの輪の外側で、誰かが黙ってスマホを構えている。記録の目は、いつも無表情だ。


 校門の外では、通学路沿いの祠を掃除していた近所のおばあちゃんが、箒を止めて透花に手を振った。

 「テレビの子だねえ。あんた、撫でるんだって? 祠は痛がらんのかい」

 「大丈夫。紙を破らないで、角を丸めるから」

 「なら、よかったよ」

 おばあちゃんの笑顔は、報道の帯よりあたたかい。


 SNSでは“臨界点筆頭”が連日トレンド上位。

 #斎宮透花 #撫で式革命 #紙を破るな #ご飯は正義

 動画の切り抜きに混じって、陰陽庁の公式もコメントを出す。《若年の術者に過剰な接触と請願をしないように》

 言葉はやさしいけれど、針は入っている。善の顔は、いつも針をしまい込める仕立てだ。


 講師棟の窓。黒江は、校庭を横切る行列をしばらく眺めたのち、眼鏡越しに小さく息を吐く。

 「——これが“人の臨界”だ」

 隣で御影が頷く。「透花を“物語”にし過ぎないこと。日常に戻してやる線を敷こう」

 「祠水印の携行版、校内にも一段増やす。踏めば記録、触れれば遮断。角を丸く」


 そこへ内線。『陰陽庁・午后の理事会、準備完了』

 光の帯が濃くなる前に、会議の室へ向かわねばならない。



Ⅱ 理事会:名を与えられるということ


 講堂棟の上階、重たい扉。中は黒檀の長卓と、祠の水皿。

 御影が壇に立ち、要点だけを告げた。「北条断層、外圧1.12へ収束。**廉式(裏面吸音)**を暫定承認。——斎宮透花を“臨界点筆頭”と認める」

 水皿の針は半と一の間で安定、鈴は鳴らない。良い。


 発言権を求めて立ったのは、天御財閥の新理事、有馬響真。

 四十代半ば、髪は銀灰、声の温度は涼しい。「異議はありません。だが、名は楔だ。称号の授与は、社会の矛先の集約でもある」

 ざわめき。彼は続ける。「露出が過ぎれば、怪異より先に人が騒ぐ。保護と観測の枠を——」


「露出って、テレビに出るってこと?」

 端で牛乳を抱えていた透花が、こてんと首をかしげる。

 室内の空気が一瞬止まり、次いで微熱の笑いが波のようにひろがった。

 有馬は目だけで笑った。「そうだね。だが君は“食べるほうを忘れないで」

 「食べるのは得意。三人前までいける」

 「……心強い」


 蔵王が締めを置く。「名は与えた。守りは皆で敷く。紙は破るな。角を丸く」

 水皿の表面に、天井の灯りがやわらかく揺れていた。灯は、強くし過ぎると影を濃くする。照らすのは祠と足元だけでいい。



Ⅲ 春の守護祭、始動——屋台は灯だ


 理事会の翌朝、参道は骨組みで森のようになった。

 唐揚げ屋は衣の配合を議論し、牛乳スタンドは冷却槽を磨き、護符書き体験は筆の穂先を整える。

 「“撫で割”って書いたらお客さん増えるでしょ」透花が看板にマジックを走らせ、澪が慌てて奪う。「割の字の角が尖ってる! 丸く!」

 「字にも角ってあるんだね」

 「あるもん!」


 裏では財閥の中継班がケーブルを這わせていた。技術者の肩には“天御”のカード、首から提げたパスは“灯の輪”。

 黒江はそこを通り過ぎる際、ポケットの中の携行祠水印を指でつまんだ。写し取りの布は、今日も青い。

 「善は腹へ、善は台所へ。蛇口は腹に繋ぎ、鍵穴は作らない」

 御影の合図で、学内の遮断ラインも一段太くなる。踏めば記録、触れれば遮断。これは“見せる守り”だ。



Ⅳ 暁音(あかね)、来訪——“破りの家”の娘


 春風と一緒に、扉がすっと開いた。

 「今日から転入しました。**暁音(あかね)**と申します」

 深い琥珀の瞳、黒に赤が差す髪。制服の裾の刺繍は、関西の名門〈鳴神家〉。断ちの家だ。


 「ようこそ! 牛乳、飲む?」透花が一本差し出す。

 「……ありがとう。でも、私は甘い白が少し苦手」

「わあ、人生の三割損してる」

 「ふふ。三割は大きいわね」


 昼休みの屋上、隣に立つ暁音は風を見ていた。

 「あなたの撫で、映像で何度も見た。紙を破らない。角を丸める」

 「うん。眠らせるのが好き」

 「私は断つ。破る前に、切り口を決めて、早く終わらせる」

 空気が薄く冷えた。

 「どっちも守りだよ」透花は笑う。「台所が続くやつなら、どっちでも」

 暁音は、わずかに目を細めた。「——人を守るために、人を切ることもある」

 言葉に紙の音が混じる。彼女の背には、古い裁断の気配。

 「関西の断層、私の家は切った。眠らせるには遅すぎたから」

 透花は頷いた。「……遅い時も、ある」

 「あなたは遅れないで」

 暁音は、それだけ言って去った。残り香は、火ではなく刃の冷たさ。



Ⅴ 社会の声——インタビューと庁内メモ


 放課後、守護祭特集の取材が校内に入る。

 《Q:臨界点筆頭をどう見ますか?》

 祠守の女性が笑う。「祠を撫でる子は初めて見たよ。祓うより、眠らせるのは台所向きだ」

 商店街の主人。「窓口が増えて客も来る。善は腹に届くのが一番だ」

 匿名の陰陽師。「集中が過ぎる。所有が始まる。針はいつも飴の中に隠れてる」


 陰陽庁・非公開メモ(抜粋)

 〈件名:臨界点観測〉

 — 斎宮透花(臨界点筆頭)を観測対象に指定。

 — 露出の調律:広報は“撫で=灯”の物語を継続。一方で過剰崇拝と模倣を抑制。

— 財閥側(有馬)は“透花観測プロジェクト”を提案。目的:暴走兆候の早期検知。

 — 学園側の条件:個人遮断と編集折半は厳守。紙は破らない。


 紙は、裏にいつももう一枚ある。



Ⅵ 影のざわめき——校内封印異常


 祭まであと五日。夕暮れの境内に音が増えていた。

 唐揚げ油の泡、牛乳の栓の弾ける音、木槌の乾いた打音。

 その全部の上に、ひとつ、耳鳴りが重なる。


 「……来る」

 透花の胸の石がからん。眠りの音ではない。呼び鈴。

 裏手の桜の根元、布水印が波を立てた。

 澪が測定器を握りしめる。「外圧1.41→1.73/位相ずれ拡大/窓が開く!」

 颯が赤ペンでグラフを引く。「危険領域、校舎側へ侵食!」


 黒い影が、布の角から滲んで出た。角は鋭い。丸めが間に合っていない。

 「破らず、撫でて、流して、吸う——透花式!」

 透花の輪が三重。臍は柔らかく、撫での滞留は均一、川は肩を落とす。

 影はひとつ息を飲み、ねじれる。そこで——別の手が入った。


 「断ち目、ここ」

 風切り音。暁音の指先から、細い刃の線が走る。破るのではない、割るでもない、切り口を定める。

 影の暴れが方向を与えられ、撫でがそこへ寝床を差し出す。

 「——寄り添う数、0.60→0.58」

 鷹真の声。川の肩がさらに落ち、窓が狭まる。


 影の中から、誰かの声が押し出される。

 『……起きて、いたい……見て、ほしい……』

 「見てるよ」透花は微笑む。「でも眠るのも、見てるから」

 暁音は眉をひそめる。「祈り残りだ。人の願いが、封印に張り付いてる」

 「撫でで角を丸める。切り口、お願い」

 「了解」

 ふたりの呼吸が一拍、合った。撫で×断ち。矛盾しない二つの守り。


 影は布に吸い込まれ、砂に還る。

 布水印の裏に写しが残り、証拠は保存される。騒ぎは、起きない。


 ——しかし、代償は来る。

 透花の唇に、鮮やかな赤。鼻腔が焼ける。

 「っ……塩足りないかも」

 「後で祠プリン食べな」澪が笑いを作る、手は震えている。

 鷹真が駆け寄り、肩を抱いた。「医務祠へ」



Ⅶ 医務祠——代償の重さ、軽口の重さ


 白布のベッドが一つ。灯が丸い。

 透花は横になり、牛乳を半分だけ飲んで目を閉じた。

 「……寝る。起きたら、唐揚げ」

 「後でな」鷹真は額に冷たい布を乗せる。「お前、人の祈りまで抱え込むな」

 「撫では、布団だから。布団、大きいほうがいい」

 「布団になるな。掛けろ」

 ふっと笑いが漏れる。笑いは、祠では薬になる。


 御影が報告に来る。「祈り残りは学園創立期のものだ。『守れ』と『見よ』の命令形。所有の匂いがうすく残っている」

 黒江が補足。「春の守護祭は見せる守り。見よと守れが混ざると角が立つ。——丸めを増やそう」

 「丸めは台所でやる」

 透花の寝言に、御影は苦笑した。「台所、偉い」


 暁音が戸口で立ち止まった。「ありがとう。合わせてくれて」

「ううん。切り口、きれいだった」

「私は断ちの家。撫では、私には難しい。……人の祈りは、刃に絡む」

「刃も、布団に包めば温かいよ」

暁音は黙って会釈し、去った。背中に残るのは、まだ刃の冷え。



Ⅷ 夢:焚き火と裏紙層


 眠りの底で、焚き火がぱちぱちと音を立てる。

 祖父・斎宮廉が、火を撫でている。

 『透花。表が賑やかだな』

 「うん。春の守護祭。……楽しいけど、針もいる」

 『灯は影を連れてくる。影は悪ではない。裏へ寝かせる場所だ』

 祖父は土の上に、指で四角を描いた。紙の枠だ。

 『学園の下に、もう一枚紙がある。創立期の祈りが層になっている。見よと守れの命令形。

  ——どちらも善だが、足し算で増えると針になる』

 「どうすればいい?」

 『読まない。撫でる。裏面吸音を校内版にする。“廉式”を君の息で薄く敷け』

 「薄く?」

 『厚く敷けば、表の声が届かない。学園は灯で学ぶ場所だ。影は眠るだけでいい』

 祖父は火を見ながら、もう一度言った。

 『紙は二枚。角を丸め、破るな。守るとは眠らせることだ』

 火がふっと小さくなり、夜が広がる。夢がほどける感触は、撫でによく似ている。



Ⅸ 朝:掲示板と人の臨界


 目が覚めると、医務祠の窓に牛乳みたいな白が広がっていた。

 透花は体を起こし、ゆっくり歩いて掲示板へ。

 新しい紙が二枚、角がよく丸い。


『校内封印調査班 設立』

『監修:臨界点筆頭・斎宮透花』


『春の守護祭:見よと守れの線引きについて(祠水印・個人遮断・編集折半)』


 「……仕事、増えた」

 「食べる量も増やせ」鷹真が横で腕を組む。

 「冷めちゃうけどね」

 「冷めても食べるくせに」

 「食べるよ!」

 ふたりの軽口に、周囲の空気が少しだけゆるむ。日常の手触りが、いちばん効く薬だ。


 そこへ暁音がやって来た。琥珀の瞳は、昨日よりも柔らかい。

 「調査班、私も入る。断ちと撫で、両方いる」

「うん。布団の端、お願い」

「任せて」

 短い会話。けれど、息の合わせ方は、昨日より半拍分だけ近い。



Ⅹ 守護祭準備:見せる守りの稽古


 境内の練習がはじまる。

 奉納台の四隅に布水印。写しは裏へ、灯は表へ。

 澪がマイクで台本を読み上げる。「——“見よ”は公開ログへ、“守れ”は個人遮断へ。撫では共有するけど、核は共有しない」

 颯がグラフを投影。「窓の開閉は段階で。外圧は蛇口の比喩で説明しよう。鍵穴にしない」

 莉子は“角を丸めるにはこうする”のゆる絵を描く。角の先に絆創膏を貼るイラストが妙に人気で、屋台のおじさんが笑って撮っていった。


 有馬響真は遠巻きにそれを見ながら、秘書に短く指示した。「観測は距離を取って。露出は調律。——触るな」

 彼の視線は、物語ではなく運用のほうを見ている。善悪の話は、あとでいい。まず壊れないこと。



Ⅺ 小さな揺らぎ——祠の童(わらべ)


 夕暮れ、参道の端で、紙を折ったみたいな小さな影が跳ねた。祠の童だ。

 「迷子?」透花がしゃがむ。

 紙の童は、角が鋭く立っている。見られすぎて、落ち着かない顔。

 「撫でで、角を丸くするね」

 指先を円にして、ゆっくり——童の角がふにゃと丸くなり、紙の耳がふたつ折れて笑った。

 「どこから来たの?」

 童は参道の布水印の端を指差す。写しが重くなっている場所。

 「見せる灯に、触る手が混ざってる」澪が小声。

 「触らないで見せる、もう一段太く」黒江が指示。角は、太さで丸められることもある。



Ⅻ 夜の回覧——内部メールの断片


 夜半、学園のネットに短い回覧が走る(一般非公開・要職限定)。


件名:臨界点観測・調整(共有)

差出人:天御・有馬

宛先:御影、黒江、庁・観測班

1. 透花観測プロジェクト:暴走兆候の早期検知。露出の調律は広報に一任するが、接触の線引きは学園裁量で。

2. 守護祭:見よ/守れの線を明文化し、編集折半を徹底。網の搬入は不可。

3. 封印層(学園地下):裏紙層の存在を前提に、廉式・校内版の検討。撫で(臨界点)と数(後継)で共同設計。


——紙は破るな。角は丸めろ。


 メールを読み終え、御影は小さく頷く。

 「並走だ。孤立させない」



ⅩⅢ 屋上——半歩の距離、息の同調


 夜の屋上、風は牛乳の白を冷やすだけの強さ。

 透花は欄干に肘を置き、星の少ない空を見上げる。

 隣に半歩の距離で、鷹真。

 「君の撫では、式にしきれない部分を繋ぐ。寄り添う数は、そこに寄り添うためにある」

 「塩は舌で覚えるの」

 「何度でも聞くよ、その比喩」

 「じゃあ唐揚げ食べる?」

 「……後で」

 ふたりの笑いは小さい。小さいけれど、強い。台所の笑いは、祠の鈴を鳴らさずに灯を支える。


 そこへ暁音。

 「半歩、いい?」

 「四分の一歩までなら」鷹真が冗談を言い、暁音が珍しく笑う。

 「裏紙層、私も見る。断ちの視点で。切り口は、撫での寝床と相性がいい」

 「布団の端、任せるね」

 「任された」



ⅩⅣ 春の朝——角を丸める準備


 翌朝。掲示板の紙は増え、角はより丸い。

 “校内封印調査班・初動手順”

 “守護祭・観覧導線(祠水印・携行版)”

 “睡眠は正義(栄養・休養のお願い)”


 「睡眠ポスター、透花がモデル?」澪が吹き出す。

 「寝顔は個人遮断でお願いします」颯が真顔で言って、また笑いが起きる。

 笑いの中で、透花は胸の石に指を置いた。からん。眠る音。

 祠の鈴は鳴らない。良い。角は丸くなってきている。



ⅩⅤ 守護祭前夜——小さな祈りの片づけ


 前夜、参道の影を拾う作業が続く。

 布水印に溜まった祈り残りの写しを封筒へ。

 「公開の袋」「遮断の袋」「裏の袋」。三種の仕分けは地味だけど、台所の仕事だ。

 上級生がポットに牛乳を温め、手のかじかむ一年生に紙コップで渡す。

 「灯は腹から」

 「うん」


 北条から届いた短い短信が端末に光る。

 《北は静か。裏は眠る。角よく丸し》

 透花はふっと微笑んだ。眠りは連帯する。



ⅩⅥ 小休止——台所の神様


 学園の台所には、古い小祠がある。

 その前で、透花は手を合わせた。

 「唐揚げ、今日もお願いね。塩は舌に合うやつで」

 祠の鈴は、鳴らないで微笑む。日常の祈りは、公開も遮断もいらない。

 暁音が隣に立ち、小さく礼をした。「布団、借りる」

 「一緒に寝よ」

 「……それは、少し怖い」

 ふたりの笑いが油の匂いに混ざって、夜はやさしく濃くなっていく。



ⅩⅦ 夜半のさざ波——読まない勇気


 寝静まる学園で、裏紙層がうっすらと息をする。

 “見よ”と“守れ”が重なって、角が少しだけ立ちかける。

 透花は起き上がらない。読まない。

 胸の石に指を置いて、撫でだけ置く。薄く、広く。

 廉式・校内版の最初の一枚は、睡眠と朝食の匂いを帯びて、学園の底にそっと沈んだ。



ⅩⅧ 朝——掲示の白と、未読の影


 朝の白が、校舎の角をやわらかく撫でる。

 掲示板はまた増えて、角がみんな丸い。破れはない。

 でも、未読の影はいつもある。読まない勇気が、撫での友だち。


 鷹真がノートを閉じ、半歩の距離で言う。「並走」

 「布団は二人用」

「重い布団だな」

「温かいよ」


 暁音がやって来る。

 「切り口、今日も任せて」

 「撫では任せて」

 息が合う。臨界点は、自分だけではない。日常と友だちと台所と、ぜんぶで持つ。



ⅩⅨ 余白——内部メモの末尾


 そして夜。

 庁と財閥、学園に跨る共有フォルダに、一行だけ追記された。


追記:臨界点観測。彼女を観測対象に。

だが——観客にするな。台所を奪うな。

紙は破るな。角を丸めろ。


 この一行には署名がない。

 けれど、文体の“塩”は、読む人が読めば分かる。有馬の文に見えて、少しだけ御影の匂いもした。



ⅩⅩ 締め——白い息、白い牛乳


 夜の終わり、屋上で息を吐く。白がほどける。

 透花は胸の石をとん、と叩く。からん。今日は、よく眠れる音。

 ポケットから牛乳を取り出し、ひと口。白は喉をまっすぐ落ちて、台所まで届く。


 「破らない。撫でる。眠れ」

 小さく言って、笑う。

 春の守護祭は、明日だ。灯の輪が広がる。角は、丸い。

 でももし、誰かの祈りが針になったら、その針ごと布団に包んで寝かせよう。断ちが必要なら、端だけきれいに。

 日常は、そうやって続いていく。


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