第2話
あの日、女は死に際に言った。
「愛してた……ありがとう」
その言葉は男の胸に深く刻まれ、日々の生活の中で重くのしかかる。仕事の合間、夜の街を歩くと、ふとした瞬間に女の笑顔や仕草、囁き声が脳裏に浮かぶ。許しと後悔の入り混じった記憶は、逃れられない鎖のように男を縛った。
あの夏の日、二人で海辺を歩いたこと。風に髪を揺らし、笑い合った瞬間。互いに小さな約束を交わした、未来への希望。その時、男は彼女を守ることができると信じていたのに――現実は残酷だった。
友人に「もう忘れろ」と言われても、男は笑って流すしかなかった。忘れられるはずもない。女が命をかけて残した想いを無視することなどできなかったのだ。夜、ひとり酒を飲むと、耳元で女の声が囁く。
「私を憎まないで……でも、私の愛を忘れないで」
男は息をつき、拳を握る。重い枷を抱えながらも、日常に戻らねばならない現実。彼女の最期の告白は、命を奪った罪の重さだけでなく、愛の深さも同時に男に刻んだのだ。
思い出は痛みと共にある。だがその痛みこそが、彼女を愛していた証であり、命を失った悲しみの深さの証でもある。男はそれを胸に抱き、今日も生き続ける。
忘れられない痛み、消えない愛――それらを抱えたまま、男は歩き続けるのだった。
愛の枷 @19910905
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