不定期食堂『ガーさんの家』

ガルガイヤーが片手に魔魚王を持って街を歩く

すると街の人たちがガルガイヤーに近づいてくる


「ガーさん!それってもしかしてだけど」

「ああ!皆が迷惑していた魔魚王である」

「本当に倒すなんて凄いわ」

「僕も大きくなったらガーさんみたいになる」

「ワシらも安心して釣りができるのぉ」


老若男女問わずガルガイヤーに話しかけてくる

本当に嫌われていないんだ

むしろ好かれている


「そうだ

皆に渡したいものがあるのだ

ラプラス、チラシを皆に配ってくれ」

「はい!わかりました」


そうして不定期食堂『ガーさんの家』についてのチラシを一人一人に配っていく

反応は十人十色だった


「本当にするんか!」

「ガーさんの料理は美味しいから好きなのよね」

「ママも呼んでいくからね!」

「はっはっは!楽しみに待っておれ!

さて、行くぞ

ラプラス!」

「は、はい!」


街の中心地まで連れてこられる

ガルガイヤーは高さ3階分はある大きな一軒家で足を止める

横も少なくとも5部屋以上のサイズはありそうだ

どちらかというと…宿屋?

もしかしてここって…


「我の家である」

「デッッカ」

「そうなのだ

一人で住むにはあまりにも大きくてな

せっかくだからと…いや

これ以上は中に入ってからにするか

さて、入るがいい」


家の中に入るとまずその広さに驚く

どこかの宿屋の…いや

都市部にあるホテルのメインホール並みの広さ

次に内装に驚かされる

どこかのレストランのように並ぶテーブルとイス

所々にある観葉植物

だけど邪魔にならない程度に置いており品性を感じる

そして天井で店全体を明るく照らすガラス細工のシャンデリア

どこかの高級レストランと言われても違和感も感じないだろう


「凄いですね」

「うむ

我ながら素晴らしいセンスだと思うぞ

我は地下の冷蔵庫にコレ魔魚王を置いてくる

その間に2階でも見てくれ」


この家地下まであるの?

もう開いた口が塞がらない

…2階に行くか


2階に続く階段の壁にも観葉植物がつるされている

…ツタかなコレは

あ、いい匂いがする

バニラエッセンスのような甘い匂いだ

どこから薫ってるのかな…ツタだ

えぇ?何これ知らない

こんな種類のツタ聞いたこともないんだけど

というか、ツタって匂いするの?


そんな疑問も2階に着くと消え失せる


「うわぁー」


今度は雰囲気がガラッと変わる

全体的に暗めの空間

その中で唯一明るいカウンター

その後ろには数えられないほどたくさんのお酒

それと対照的に片手で数えるほどしかない丸テーブル

そしてダーツとビリヤード台が一つずつ

…バーだ

えぇ?噓でしょ


「どうであるか

なかなか良いものだろう」

「そうですね…

何を考えて作ったのかは知りませんが」

「趣味である!」

「あ、はい」


そっかー趣味かー

じゃあ何も言えない…


「そう言えばガルガイヤー様は魔王職に就く前、何をされていたんですか?

すぐに魔王に就職されましたけど」


本来ならば退職準備とか必要なはず

それなのに即日就職

これも一つの謎だ


「我は…趣味人である」

「はい

それがどうしました?」

「だから職業趣味人である…」

「え?…あっ」


趣味人無職ってこと…?

なんか怖くなってきた

詳しく聞くのは止めることにする


「そ、それにしても素晴らしい場所ですね!」

「う、うむ

そうであろう」

「3階は何があるんですか?」

「我の生活スペースである

立ち入りは禁じておる」


そうは言われても階段が見当たらない

あれ?外から見たら3階があったはず


「変な奴が侵入しないようにな

階段はなくした」


滅茶苦茶だー


「どうやって入るんですか…」

「我はジャンプ力が高くてな」


なんか嫌な予感がする


「庭からジャンプして窓から入る」

「何やってんですか!

普通に階段作りましょうよ!」

「これだけは譲れん」


なぜか頑固になられる

そんなに部屋に入られたくないのかな?

入ってみたい気持ちもあるけど私の身体能力では届かない

…諦めます


「そろそろ料理に入ろうか」

「…それもしかして私も手伝います?」

「もちろんだろうが」

「そんなぁ!」


~4時間後~


「そろそろ開店するか!」

「そ、そうですね」


嘘です

正直もうへとへと

今から接客とかやってられないです

でもガルガイヤーを見ると手伝いたくなるんだよね

新しいおもちゃを貰った子供みたいで


「ラプラスは味噌汁と米を担当してくれ」

「…え?いいんですか?」


味噌汁と米は注ぐだけの状態

とても楽な仕事だった


「うむ

むしろ手伝わせてしまって申し訳なく思っておる」

「そんなことないですよ!

私だって楽しかったですし」

「本当か?無理は言わなくてもよいぞ」


本当だ

確かに大変だったけれど楽しかった

いつも上辺だけの会話をする仕事

言葉の裏を隠す気もない騙し合い

理解してくれる上司も一人、リュカ様しかいなかった

だけどガルガイヤーは違った

自分の好きなようにして、自然といてくれた

それが私には救いになった

だから…


「そんなこと言わないで下さい」

「…うむ

ラプラス、貴様の思いは伝わった

わかった!

貴様に接客も任せよう!」

「…はい!」

「では早速オープンだ!」

「わかりました!」


さっきまでの疲れはどこかに行った

翼が生えたかのように軽い足取りで入り口を開ける


「いらっしゃいませ!…ん?」

「やあガーどの

来ましたぞ…うむ?」


そこにいたのは…


「人間最強の大賢者…?」

「魔王軍幹部総括ラプラスどのではないか」


まさかの宿敵

もう帰りたい

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