The day after バニッシュ!?

 時計の針がド〇えもんの首輪を作ったぐらいに、わたしはやっと眠ることができた。眠るのは好きだ。なんにも考えないでいいから。

 だけど、そんな幸せはすぐに打ち砕かれる。早く大学生になりたい。あれって、午前中ずっと寝てていいんでしょう? 詳しくは知らないけど、カートゥナーの動画でそんな感じのが流れてきた。


 そういうわけで、朝の八時半――八時半!?

「いやまってうそでしょやばいってまじで」

 わたしの学校は八時から始まる。完全に遅刻だ。どうして!? ちゃんと目覚ましはセットしたのに。……解除されてる。でも、お母さんは家にいるはずだ。起こしてくれたっていいのに。

 とりあえずパジャマから制服に着替えようとするも、その制服がハンガーに掛かっていない。おかしいな、ちゃんと昨日かけた……よね? どちらにせよ、お母さんに訊かないと。


 一階に降りる。お母さんは、あろうことか朝食も並べずにコーヒーを飲んでいた。

「ちょ、ちょっと、なにしてるの、お母さん!? わたし、遅刻しちゃったじゃない! なんで起こしてくれなかったの? あと私の制服知らない?」

 お母さんが勢いよく立ち上がった。怒られると思って、わたしは首をすくめて下を向いた。

「――え」

 気づけばお母さんは後ろにいた。完全無視を決め込まれた。たしかに、寝坊しておいてあの言い草はなかった。

「お母さんごめん、でも早く学校に行かないと」

 お母さんは答えない。完全に怒らせてしまった。


 家中どこを探しても制服は見つからなかったので、仕方なく体育で使うジャージを着ていく。クラスメイトはまたわたしにあの目を向けるだろう。これなら、行かないほうがましかな。

「あー、しにた」

 朝からお母さんにあんな態度とられるし、時間はもう九時。どんな顔して学校に行けばいいんだろう。


「――すみません、遅れました」

 二時間目の教室に途中から入る。教師は何も言わない。彼は厳しい。普段なら怒鳴り散らされる。なのになにも言わない。呆れかえっているのか、それとも事情があると思ったのか。とにかくラッキーだ。

 奇妙なのが、クラスメイトも無反応ということだ。事前に示し合わせてドッキリでもしているのだろうか。いやありえない、我ながらターゲットとして役不足すぎる。


「えっ」

 さらに驚いたことに、わたしの席におばさんが座っている。遠くから見たらそうでもないが、他の席と見間違えてるのかと近寄ってもう一度見たから間違いない。この人はどう見ても女子高生じゃない。

「失礼だなあ、わたしはまだ二十四だよお」

 七つも上じゃん。

「そこ、わたしの席なんですけど」

「いいや、わたしの席だよお」

 朝のこともありカチンときた。

「その話し方止めてもらえます? あの、先生、この人は誰ですか?」

 

 無視。

「――なんで」

「うふふ、なんでだと思う?」

「ふざけてるの?」

「ま~じめ~だよお」


 頭に血が上るというのはこういうことなのだと、このとき身をもって分かった。

 わたしは目の前の女の頬をおもいっきりひっぱたいた。なかなかにいい音が鳴り、彼女の頬は瞬間赤くなった。

「――何の音だ」

 ついに教師が反応した。しまった、反応されたのはいいけどこの後のことを考えていない。これ、なんて説明しよう。

「君嶋、頬赤くなってね?」

 離れた席の男子が隣の女子に話しかける。

 ――君嶋? それはわたしの苗字だ。たまたまこの女と私の苗字は同じなの?


「君嶋碧唯。今のは何の音だ」

「あー、えっと、これは」

 どうしようどうしようどうしよう。また黒歴史が増えることになったらわたしは――

「すいません先生、ほおづえついてたらすべってぶつけちゃって」

「いらんことをするな。授業に集中しろ」

「はあい」


 ありえないありえないありえない。いくら鈍い人でも、これだけの証拠を見せつけられたら分かる。


 


 わたしは、この女に存在を成り代わられた。


「せいか~い」

 崩れ落ちるわたしに女は、スマホの画面を見せてきた。

 

 画面には、入学式の看板の隣に両親とたたずむ女が写っていた。





 

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