第3話
今日は久しぶりに家で私一人で、柳瀬とは電話で話していた。
「絢香さぁ~」
「ん~?」
「仕事辞めちゃいなよ。」
「えぇ!?やめ……!?」
柳瀬の急な一言に正直驚いた。柳瀬のほうからそんなこと言ってくるなんて。というのも、仕事のつらい話をしたとき、もっと頑張ってみたら、って引き留めてくれていたのは柳瀬だったから。
「急にどうしたの?」
「いや、なんか、もっと一緒に遊んでいたくなっちゃって。無理ならいいんだけどね、ほかにも友達いるし絢香が仕事の時はその子たちと遊んでるから。」
「もぅ。柳瀬はいつもそうやって意地悪言う!」
「そんなことないよ、いつもそうだし。ほんとのこと言ってるだけだよ。」
「えー……。」
「あれからずっとふわふわしたことばっか話してるけど、やめる勇気まだ出ないの?」
急にまじめにそんなこと言われても、そんなの、やめられない。やめられないけど……柳瀬が私以外の子と楽しそうに遊んでるなんて考えたら爆発しそうなくらい嫌で嫌で、信じられないくらい焼きもちを焼いてる自分がいて驚く。しばらく悩んだ後でゆっくり答えた。
「やめる……わかった、やめる。」
「……うん。」
「でも私仕事のやめ方なんてわかんないや。」
「そんなの飛んじゃえばいいんだよ!明日仕事行かずに朝から私と遊ぼ?絢香。」
「飛ぶ!?いいのかな……でも…いいか、いいか!飛んじゃおう!遊ぼう!」
社会人としての責任なんて、柳瀬と一緒にいればいるほどどこかに忘れてきたように吹っ切れてしまう。私は柳瀬に言われるがまま明日、仕事を飛ぶことにした。
「やった!ねえ絢香!今からそっちの家泊まりに行ってもいい?」
「今から?もう0時過ぎてるよ?」
「ダメ?」
柳瀬の押しに弱い私は断り切れず今から泊まりに来ることを了承した。
しばらくして家のベルが鳴る。
「絢香〜!お酒買ってきたよ!祝おう!」
「家の前で大声ださないの!お酒ありがとう、ほら早く入って!」
「ただいまー!」
「おかえり!」
家に入るや否や柳瀬がてきぱきとお酒や肴を用意していく。
私は今回のメインだからと席につかされて、柳瀬の準備している姿を目で追っていた。
「柳瀬。」
「ん、どした?」
自分でも気づかないうちに柳瀬の名を呼んでいた。なぜなのかはわからない。でもふと、心地よすぎて確かめてしまいたくなったのだと思う。
「私のこと、どうしてこんなに大切にしてくれるの?」
柳瀬は少し考えた後、元気に笑って分かんない、とだけ答えた。
でも今の私にはそれで、それだけで十分幸せだった。
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