小悪魔
図書委員をしてる私なんだけどー、この前、図書室でちょっとした事件があったんだ。
返却本に挟まってたノートを開いたら、そこに私のことが書かれてた!
「意外とマジメ。だけど、ちょっとかわいい」って。
しかも小さくハートマーク付き。
持ち主は、いつも図書室に来る、上級生の三人組の一人、アンナさん。
翌日、アンナさんはノートを探しに来て、私が、ちょっと見ちゃったこともバレちゃったんだけど、アンナさん、最後に、小声で言ったんだ。
「……その相関図、あなたのところ、もうちょっと書き足してもいい?」
それ以来、私の胸のドキドキは、おさまらない。
今日も来るかな?アンナさん。
来たら……もっとドキドキ、しちゃうだろうけど!
――――――
放課後の図書室。
相変わらず夕陽がカーテンから差し込んで、机や本棚が赤っぽく染まってる。私はカウンターに座って、貸し出しのスタンプを押したり、返却本を並べ直したり。地味な作業だけど、昨日の出来事を思い出しては、にやにやしそうになる自分を抑えるのに必死。
いつもの三人組が今日も来るんじゃないかって、心のどこかで期待しながら時計を気にしていたら、やっぱり。いつも通りのにぎやかな三人の声が聞こえてきた。
「マナ」さんと「クミ」さん、そしてアンナさん。あ、「マナ」と「クミ」は、彼女たちだけの、あだ名ね?
いつも通り三人でわいわいと入ってきた。
けど今日は、なんとなくアンナさんの視線が、こっちにちらちら向いてる気がする。
私と目が合うと、ふわっと笑って、すぐに視線を逸らした。
そんな仕草ももう小悪魔的で、私の心はもてあそばれてる。
でもヤバい、かわいー。
「マナ」さんと「クミ」さんの二人が本棚の方に散っていくと、また昨日と同じように、アンナさんだけがカウンターに近づいてきた。制服の袖をちょんちょんつまんで、声を潜めて。
「……あの。ちょっと、いい?」
「え?は、はい。」
アンナさんは鞄から、例のノートをそっと取り出して、私の方にすべらせた。
「見せてあげる。……でも、絶対に、他の人には言わないでね?」
心臓がドクンと鳴った。
あの相関図、書き足されたの?ってことは――私のページが増えてる!?
私は思わず姿勢を正した。
アンナさんは少し頬を赤くしながら、ノートをぱらぱらめくって、例のページを開いてくれた。
そこには。
昨日のときよりも、明らかに私の欄が大きくなってた。
「図書委員ちゃん=意外とマジメ。だけど、ちょっとかわいい」
その横に、さらに矢印とコメントが追加されている。
「→声が、落ち着いてる」
「→カウンターで本に触れてる手が、きれい」
「→真剣な顔が、特に好き」
……!?!?
もう、顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。
なんだこれ、なんだこれ。私のこと、そんなに見てたの!?
「わ、私……こんな風に見えてたんですか……?」
声が
アンナさんは、照れくさそうに目を伏せた。
「……ごめんなさい。変なこと、書いちゃって。でも……見たまま、なのよ?」
その言い方が、真っ直ぐで、逃げ場がなくて。
逆にこっちが恥ずかしくて、机の下で足をばたばたさせたくなる。
「い、いや、そんな、変とかじゃなくて!あの、うれしい……かも……です……」
小声でやっと絞り出した。
アンナさんが、髪をそっとかき上げながら、ふっと笑う。
「ほんと?じゃあ……もっと、書き足してもいい?」
「も、もっと!? え、えーと……」
私の脳内は真っ白。けど、断れるはずがない。
「……ひ、秘密にしてくれるなら……」
そう答えた瞬間、アンナさんの表情がぱっと華やいだ。
いつものにこにこ顔だけど、そこにちょっとだけ、特別感が混じってるように、私には見える。
そのあと、くるっと回って、ノートを抱きしめて立ち去るアンナさんの背中を見送りながら、私はもう頭の中で爆発しそうだった。
だってこれ、ほぼラブレターじゃん!?
いや、相関図のコメントだからラブレターじゃないはず。
でも、内容的には……!
残された私は、カウンターに突っ伏して、頬を冷まそうと必死になった。
――――――
閉室時間になり、カーテンを閉めて鍵をかけながらも、頭からあのノートが離れなかった。
「もっと書き足してもいい?」って……次は何を書かれるんだろう。
想像するだけで胸がドキドキして、眠れそうにない。
もしかしてこれからも、アンナさんはちょくちょく書き足して、こっそり見せに来るのかな。
そう思うと、放課後の図書室が、昨日までとはまったく違う意味で楽しみになってしまった。
明日は、どんなページになってるんだろう。
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