【前回までのあらすじ】

放課後の図書室。いつも決まった時間に現れる、上級生の三人組。その一人、アンナさんが返した本に挟まっていたノートには、私のことが「意外とマジメ。だけど、ちょっとかわいい」と書かれてた！しかも小さなハート付き。

翌日、ノートを探しに来たアンナさんに返すと、彼女は「その相関図、あなたのところ、もうちょっと書き足してもいい？」と囁いた。そしてその後、そのノートには「好き」とか書き加えられてて──。以来、静かな図書室の中でも、私の胸はずっと、ざわめいている。

――――――

放課後の図書室。夕陽が差し込んで、机の表面が赤く染まっている。私はカウンターで返却本を整理していた。今日も来るかな、あの三人組。昨日の「もっと、書き足してもいい？」が、ずっと頭の中を、ぐるぐるしてるんだ。

やがて、三人組の例のにぎやかな声が、図書室へ近づいてきた。そして、「マナ」さんと「クミ」さんは、笑いながら本棚の方向へ消える。その瞬間、アンナさんが、単行本を抱えてカウンターの私のところへやってきた。いつものにこにこ笑顔──でも、その目はちらちらと、私を意識しているように見える。……いや、意識してるのは、私の方なのかな？

そして、アンナさんは、私に単行本を差し出すと同時に、私にそっと顔を寄せて、ささやいてきた！

「あなた専用の、ノートを作ったの。これを、あなたに渡す時は、『お願いね？』って言うから。それが合図（サイン）、ね？」

え？私専用！？それに、合図（サイン）？どゆこと？？

――と、私が理解しきれないところへ、図書委員の先輩から、私は名前を呼ばれた。

「ちょっとー、こっち、手伝ってもらえるー？」

私はあわてて、カウンターの下に、アンナさんから受け取った本をしまった。

アンナさんは、なんか意味ありげに、ふふ、と微笑（ほほえ）んでる。

「じゃ、お願いね？」

そして、「マナ」さんと「クミ」さんの方へ行ってしまった。

それで、図書委員の先輩に呼ばれた用事を済ませてから、私は、そーっと、アンナさんが差し出してきた本を確認してみた。

すると、その本には、小さな薄い冊子が挟（はさ）まっていた。

――これがあの「書き足し」の続き、なのかな？いや、私専用って、そういうこと？

周りに見られてないことに気を配りながら、そうっとページを開くと、最初のページに「図書委員ちゃん←すっごくかわいい！」って書いてあった！

最初は、「ちょっと」だったのに、「すっごく」になってる！

あと、ハートマークが３つ！なんか増えてるし！

踊るような小さいそのマークが、私の心を直撃してくる。

もうー、アンナさんったら…。はーマジ照れる……。

私は、そっとノートを閉じて、カウンターの下に戻しておいた。

しばらくして、アンナさんが、借りる本を抱えて、いつものように微笑（ほほえ）んで、カウンターへやってきた。

私は、アンナさんが借りる本に、そっと例のノートを挟んで、アンナさんへ手渡した。

その時。

アンナさんは、私の指先に、触れてきた。

その触れ方は、そっと、そして、やさしく。

それも、手渡した本の下で。ほかの人には、分からないように。

それは本当に一瞬だったのに、私には、とても長く、感じられた。

アンナさんは、何事もなかったように表情を変えず、「ありがとう。」とだけ言って、それでいて、一瞬だけ私を見つめてきた。それから、アンナさんは、本を胸に抱きしめ、「マナ」さんと「クミ」さんと一緒に、また騒がしく、図書室を出ていった。

……今、触れてきたの、絶対、わざとよね？

表情も変えずにそんなことをしてきて、どこまで、私をからかうつもりなの…。

それに、返却と貸し出しの作業、もうとっくに慣れてるはずなのに、ほんっとすっごい緊張する！

これって、アンナさんのせいなんだけど？

……私が、アンナさんと、今よりもう少し、いや、もっと仲良くなることができたら。もしそうなることができたら、そのときには、文句言ってやろ！

すっかり静けさを取り戻した図書室のカウンターで、私は一人、誰にも聞こえないくらいに小さく笑った。

──だって、この秘密を知ってるのは、私とアンナさんだけだもの。