女神にあらず

 

青き蝶相手に何も出来ずに撤退してから数日経ったある日。俺たちは聖女から呼び出しを受けた。


国王から話があるとかで……多分、ってか確実になんか色々言われんだろなぁ。


「……」


無言で前を歩く聖女について行く。


「ヤダな〜……」

「それな」

「ちょっと、もう着くよ」


守衛の人が大きな扉を開け、俺たちは中に入った。


「よっ、また会ったな」

「「「!?」」」


は……!? なんでここに……!?


えっ、てか聖女はなんでアイツの隣に……? あれ、王様はどこいった?


目に入ったのは、玉座で足を組んで座る青き蝶だった。


体が震える。


「に、逃げ──」

「いいのか? 逃げたらお前たちの居場所は何処にも無くなる。この星で生きていけるのか? 日本に帰りたいんだろう?」

「!? なんで日本を知って……!」

「知ってるとも。というかこの前言っただろう? 『あらゆる次元を渡る』、と。お前の親も見てきたぞ」


!?


「状況を話したら『息子を返してよ!』、とか言って掴みかかってきたんだ。良い親だな。ああ、そこの『バリア』と『テレポート』の親もそんな感じの反応だったぞ」

「なんにもしてないだろうな……!」

「してないさ。あの再現のやつも生きてるぞ」


伊藤生きてんのか! よかった……!


「ねぇ、そろそろ本題に入ってよ。わざわざ呼び出したのはそれでしょ?」

「そーそー、ウチらゴタク? ってやつ好きじゃないから」


え、伊藤が生きてたってのになんかそこまで嬉しそうじゃない……ってかむしろ……。


「そんな焦らなくても……ま、いいか。本題は……お前たち、帰りたくないか?」

「!? きゅ、急になん……すか」


もしかしたら帰してくれる、なんて甘い希望を考えて思わず敬語になってしまった。


「……帰りたい」


瀬戸が普段よりも小さな、それでも強い声で言った。


「他の2人は?」

「お、ぉ俺は……俺も……帰りたい、です」

「……ウチも帰りたい。もうこの世界は無理〜」

「でも……」

「方法ならある。というかそうじゃなきゃここには来てない」


足を組むのを止め、真剣な表情でそう言ってきた。


「教えて! ……ください」

「自分の立場を弁えているようでなにより。方法なら単純だ。私は次元を歪めてワープゲートを作れる。シンプルだろ?」


恐らく……マジ、だと思う。


「んー、ウチらは嬉しいけど……そっちになんかメリットあんの? ただ親切ってわけじゃないっしょ?」

「確かに……なんでっすか?」

「一番の理由は私の邪魔をしてほしくないから、だな。特にテレポートのお前。気づいているか? 見てわかったが、その能力は空間に干渉する4次元の力の一端……つまり、戦いたくない相手なんだ」


……なんか呆れられた。ムカつくが、しょうがない。頭良い奴は分かるんだろーな。


「ただ、デメリットもある。ちゃんと説明しないとフェアじゃないからな」


っ、そう、だよな。それが普通か。


「お前たちはこの星の魔法が使えなくなる。これだけだが、手に入れた力を手放すのは惜しいか? 私には分からないがな」


使えなくなる。つまり……無くなる? この危険な力を捨てられる? ……メリットしかねんだけど。


「そんなわけで、分かってくれたか? で、どうする? 別に騙そうなんて思っていない」

「……どうする? 俺は魔法を捨てて帰るのでいいって思ってんだけど……」


本当は即答したかったが、他の2人はどうか分からないし……。


でも出来れば─


「魔法なんかいらない。家に帰りたい」

「ウチも。元々無かったけど全然ヨユーだったし? 親の方が大事っしょ。この星の人達はかわいそうだけど、みんな魔法使えるんだしそっちで何とかしなよってカンジ」

「それは俺も思った。……青き蝶さん、俺たち帰りたいです」

「よし、全会一致だな。今すぐに帰るか? それとも何か持ち帰るものとかはあるか?」


持ち帰る物……。


「……あ、制服」

「いる?」「いるでしょ」

「制服か。取ってくるなら少し待つとするか。なるべく早く準備しろ」

「「「はい!」」」


◆◇


「戻ったか。それで全部か?」


再び部屋に入ってきた彼らは小さめのバッグをそれぞれ持っていた。


なんか荷物少ないなコイツら。こっちで買ったものとか無いのか? ……無いか。


「全部です」

「なら……」


玉座の横に手をかざし、ワープゲートを作る。もちろん先はコイツらのいた地球だ。


「すげぇ……!」


ワープゲートを通る際には、脳の一部を分解と再構築するよう細工をしてある。魔法は奪うが、遺伝子的には彼らはニンゲンのままだ。


「……あの、伊藤って今どうしてるんですか? アレは帰りたいとか言ってないんですか?」


『バリア』の女が聞いてきた。


「アイツなら……帰りたくないのか、って聞いたら何も答えられずに黙ったままでな。それに、アイツの価値は今魔法しかないだろ?」


嘘は言っていない。事実も言っていないがな。


「……そぅ、っすか」

「アイツが良いならいーんじゃない? そーゆー考え方ってやつっしょ」

「まぁ、確かにね」

「んじゃ、ウチ一番乗り〜!」


『テレポート』の女がワープゲートを軽いジャンプと共に通り抜けた。


「あ──」

『あ、日本だ〜!』

「マジで!?」


続いて『爆発』の男がワープゲートに頭を突っ込み、先の景色を見た。


『マジだ!』


全身をワープゲートの先に通した。


「……その、ありがとうございました」

「構わない。利害の一致さ」


最後に『バリア』が歩いてワープゲートを通った。

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