龍に会う

 

聖女は『女神』とコンタクトを取れる存在だということが判明した。


コンタクトを取れるだけで姿なんかの情報はほぼ分からなかった。とはいえ、我ながら鮮やかな乗っ取りができたと思う。


聖女は歩いて勇者達がいる城の庭へ向かった。


3人は何か言い争っているようで、私が来たのに騒ぎっぱなしだ。


周りの兵士たちは止めようにも止められずに狼狽えている。


「─だから、今からでもアイツ助けに行こうぜって!」

「無理だしイヤに決まってんでしょ! ウチまだ死にたくない!」

「……僕も同感。人間の相手じゃないよ、アレ」


アレ呼ばわりとは酷いな。


「勇者達よ」


聖女の良く通る声が響く。


「報告を聞こう。私も見ていたが、対峙した者の意見が聞きたい。付いてこい」

「「「……はい」」」

「それと、兵士たちよ。天衣山への強襲作戦は中止だ」


そう伝えたところで1人の兵士が質問してくる。


「な、何故ですか聖女様!? 納得のいく理由は─」

「無論、青き蝶の力が想像を凌駕していたからだ。お前たちは瞬く間に鎧を溶かす毒の霧に勝てるか?」

「……失礼しました」

「分かればいい。……私は、無駄に命が散り逝く様を見たくは無い」

「聖女様……!」


聖女が言いそうな、もしくは過去に言っていたセリフをそれらしく言えば兵士たちは納得して敬礼をした。


……てか聖女コイツ、こんなこと言う割には女神に捧げる犠牲とかは許容してるんだよな。無駄じゃ無ければ散ってもいいのか……。



さて、もう勇者は脅威では無くなった。


「聖女の記憶から分かったんだが、龍は山頂付近の洞窟にいるらしい」

「山頂か……ちょっと遠くないか?」

「そうか? ……確かにニンゲンにとっては遠いかもな」


霧に覆われていない部分だけでも2000mはあるように見える。


「どうする? ワープで行くか?」

「……お母さんと歩きで行きたいな。思い出作りも兼ねて」


思い出作りか。初めてだな。


「なんとなくだけど、お母さんそろそろこの星から離れるんでしょ?」

「! よく分かったな! そうだ、龍と女神の力を手に入れたら私はこの星を喰って次に行く。パルヴァーデも行くだろ?」

「! うん!」

「決まりだな。よし、歩いて行くか!」


不測の事態に備え、各地の実験場から装備を手元に持ってきてメンテナンスを行った。


女神用の切り札以外は龍にも使うことを想定して念入りに。


私たちは戦闘用に作った紺のボディスーツへ着替え、その上に黒いレザージャケットを羽織った。


「おお……これカッコイイ!」

「自信作だ」


ちゃんと私の触手をどこからでも出せるからな。破れる心配もない。


地下室から村へ出る。


すっかり夜だ。私は見えるがパルヴァーデは……。


「星がきれい……! お母さん! 早くいこ!」

「ああ、出発だ!」


問題なし!



歩き始めてから暫く経ち、右側だけ照らされている月が頂点を過ぎて下がり始めた頃。


私たちは霧の中へ入った。


「ちゃんと見えてるか?」

「大丈夫だ」


道は無くなりただ森の中で緩やかな登り坂を進む。


月も星も光は届かず、微かに発光する虫とキノコ、そして私たちのボディスーツに走る水色の光の線のみが辺りを照らす。


「パルヴァーデ、怖くないか?」

「全然。むしろこの先に何があるのか分からなくてワクワクする!」

「アハハ! 宇宙でもやっていけるな!」

「ほんとか!? 嬉しい!」


静寂をぶち壊すように私たちは笑い合いながら歩いた。


空が僅かに明るくなり始めた頃、私たちは洞窟の入り口を見つけた。


その入り口はとても大きく、岩肌が霧で少し濡れていた。


「ここだな」

「遂にか!」

「ああ、あっという間だった」


私はここからあのビームを受けてこの星に来たんだな……。


「行くぞ」

「うん」


洞窟に足を踏み入れる。


私たちの足音と水滴が岩に落ちる音だけが反響するここからは、龍はおろか生き物ひとつ存在するかどうか怪しい。


「何にもない……本当にここなのか?」

「方角的には天衣山の中心に向かっているから、ここのはずなんだが……」


反響定位ソナーには岩しか引っ掛からない。


「もっと奥かもしれない。進もう」

「分かった」



……髪が不規則に揺れた。


「ストップ、風だ。この先に何か広い空間がある」

「……龍はいないのか」

「みたいだ。だが……」


風の吹いた方向へゆっくりと進んでいく。


「……光だ」

「明るくなってる……!」


洞窟の天井に空いた大きな穴から外の光が入り込み、光を反射する霧の水滴が薄いレースのカーテンのように輝いていた。


「おお……!!」

「綺麗だな……」


こういう景色はたまにしか見ない。


「……? 何か聞こえる」

「! 空気が震えてる。何か来るぞ!」


幻想的な雰囲気を崩れるように、風が洞窟内に轟音と何かを運んできた。


『GaAaaAa!!!』


お出ましか、龍……!!


穴から顔の部分だけを出した緑色の巨大な龍が私たちを睨んでいる。


「「デカイな……!」」


ビリビリと周囲の空気に謎のエネルギーが迸る。


……これだ! このエネルギーだ! 私を撃ったあのビームのエネルギーは!


「アーッハッハッハッハ!! 初めましてだな! さて、私にその体を捧げろ!」


どんな遺伝子情報なのか気になるなぁ!


「パルヴァーデ、行くぞ!」

「うん!」


エネルギーが空中で渦を巻きひとつに固まると、そこから何本ものビームが放たれた。


「パル!」

「全部躱せる!」

「流石だな!」


ひらひらと舞踊るように避けながら龍へと近づいていく。


四方八方に拡散したビームは眩い光を放ちながら岩を溶かして消えていく。


反射を考慮しなくていいのは楽だな!


「そらっ!」

『GYAaa!!!』


目玉に音速を超えた青いガラスの触手が突き刺さる。


「はぁっ!」


跳び上がったパルヴァーデが龍のもう片方の目に向かって、強烈な踵落としを叩き込んだ。


─ブチッ!!


「『落ちろ』!」


そのまま重力魔法で龍を地面に押し付けた。


デカいやつは小さい生き物をピンポイントで殺すには難しい。相性が出たな!


─どろり


「まずは脳と体を切り離す! パル! 1分頼む!」

「分かった!」


目からさらに触手を伸ばして体内構造を調べる。


さて……!! どんな遺伝子情報があるのかなァ!



……なるほど。


「もういいぞ」

「ん」


空を翔ける龍は今、白目を剥き浅い呼吸をしながら地を這っている。


「中にニンゲンが入ってる」

「えっ!? それはどういうことだ!?」

「私のバイオスフィアに近いんだが……簡単に言えば、コイツは複数のニンゲンが元になって動いている人工生命体みたいなものだ」


細胞の劣化が激しい……700年くらいか? 作りが雑だし専門的な技術無しに無理やり繋げた、ってところか。


「魔法……だよな?」

「だろうな。科学ならもっと上手くやれる」


心臓と脳の位置がバラバラだし、手足や他の臓器も残すなんて無駄な事は……少なくとも私ならしない。


「……とりあえずバラしてみるか」

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