自動販売機
天衣山の麓にある村が見える位置までやってきた。
「そろそろ歩いて行こうか」
「分かった」
舗装のほの字も知らないような草を刈っただけの道を歩く。
なんだか落ち着いた気分になれる。木々のざわめき、虫の大熱唱、空気の行進……悪くない。
宇宙にいるのとはまた違うがこれはこれでアリだ。
「〜♪」
パルヴァーデもそれは同じようで、笑顔で鼻歌を歌いながらスキップし始めた。
どんよりとした霧に覆われた暗い森とは裏腹に、私たちの気分は快晴だった。
……だった。
「パルヴァーデ、悪いんだが先に行って適当な空き家を確保しといてくれないか?」
「え……うん、分かった」
笑顔から一変、真剣な表情で村まで高速で走っていった。
直後、パルヴァーデに背を向ける形で私の目の前に4人の男女が現れた。
カラフルなパッと見はオモチャにしか見えないような剣を持ち、変なブレスレットやベルトをしている。
あーあ、もう少しだったんだけど。
「初めまして、勇者達。不意打ちの一つもしないなんて、随分と余裕そうだな?」
武器を構えることすらせずにそう言った。
「うわ、ウチら来るのバレてんじゃん……! 逃げれるようにはしとくよ」
「いつでも『バリア』張るからね……!」
「美人だけど……ぁ、んか怖ぇ……!」
「……」
『爆発』のヤツは勘がいいな。生き残れそうだ。
城にいる私が護衛の騎士を喰らい尽くし、聖女を乗っ取った。
記憶を読み取りながら目の前の勇者達と言葉を交わす。
「おいおい、挨拶も無しか? ってああ、そうか。こういう時は自分からだったな。私は侵略種『ヴェスティ・アニマル』。いくつもの次元、星であらゆる生物を食い荒らし巡る存在だ」
上半身をニンゲンの姿のまま、下半身だけタコやカマキリなどあらゆる生物の見た目を混ぜた形に変化させる。
「お、ぉぉ俺は竹シュン! ただの高校生だ!」「えちょ、なんで律儀に自己紹介してるの!? 馬鹿なの!?」「どーかん」「だって、誰にだって挨拶はしたほうがいいかなって……!」
足が震えてるのによくやるじゃないか。そして隣から話しかけられても目線は私に向けたまま……基本に忠実、いいな。
「これから戦うんだ。名前は知っておきたいんだが……」
『再現』のやつ以外は剣を私に向けたままだ。……いや再現のヤツは何してんのそれ。
「……変身」
ん?
男が腰に巻いていたベルトに付いた変な機械から黒い霧が現れ、男を覆った。
霧が晴れると黒と金色の鎧を身に纏った姿に変わっていた。
『Dark of the moon!』
「……ハァッ!」
へぇ、それが。
「「「変身!」」」
再現の男がパワードスーツを纏ったことをきっかけに、他の3人も同様に姿を変えた。
なんだか再現のやつより装甲が少ない気がする。これはわざとか? まぁなんでもいい。
「……ぷっ」
剣を掲げながら突っ込んできた黒と金のヤツに向かって、霧状にした『最強の毒』を口から少しだけ吹いた。
─ジュッ!!
剣と全面の装甲が溶けて無くなり、露出した服の一部も蒸発するように煙をあげた。
「はぁ!? なん─」
「よっ、と」
剥き出しになった生身の部分、つまり胸部に直接タコの触手を叩き込んだ。といっても立てなくするくらいの強さだ。
「ガは──」
その場で膝をつき項垂れた。
『AMATERASU! SLASH!!』
横から飛んできたのは熱エネルギーで作られた刃。やったのは、『爆発』か。
「思い切りがいいな」
まだ背中側の装甲が残っている男を掴み、盾にして防ぐ。
その衝撃で黒と金のパワードスーツは霧散し無くなった。
「変身解除、ってやつか? お返しだ」
適当に金属の刃を作り3人に向かって撃ち出した。
「『バリア』!」
半透明な壁が現れそれを防いだ。
「大宮さん、撤退」
「え……」
強度はそこそこあるのか。
「いや……」「はぁ!?」「撤退! 大宮さん!」「っ、分かった」「いや伊藤は!?」「今の見てなかったの!? ほらいいから─」
3人の姿が消えた。
「逃げたか」
倒れた男の前に落ちている大きなバックルを拾う。
青いガラスの触手を隙間から差し込み、ハッキングをし内部の情報を読み取っていく。
「中身はちゃんとあるようで何より」
「返、せ……!」
立ち上がって手を伸ばしてきたが、ひらりと躱してタコ足を引っ掛けて転ばせる。
─ゴリッ
作った足で背中を踏みつける。
「うぐ……っ!!」
「ん……よく出来たオモチャ、といった程度か。パワードスーツにしては無駄が多い」
こんなんじゃ私には傷をつけることすら不可能だ。
「それはおもちゃなんかじゃない!」
「……確かに電子部品は私の兵器の材料になるな!」
「ふざけ──」
─バキッ!!
外装を割って中の部品、シリコンが多く使われているicチップを取り出した。
「ふぅん、純度はそこまでだな。お前、これもっと純度を……って無理か。これはお前が作ったものじゃないんだったな」
「それは俺がっ……!」
「『俺が』なんだ? 再現してるだけで、お前のオリジナルではないだろう? 架空の武器だろう? 新しく何か作ったか?」
icチップごと離れた位置に投げ捨てる。
「力を与えられただけの分際で自分を天才か何かだと思ってでもいたのか? ロクに勉強していないからそうなる。『爆発』のヤツはやっていたぞ? 無闇に突っ込まず飛び道具で攻撃してきた。お前は本当に落ちこぼれだな」
「はぁ!? 俺はアイツらより頭いい!」
「ブフッ!! アーッハッハッハッハ!! もうその発言がバカだろ!」
コイツ、ホンモノだ!
「殺すのが惜しいな!」
「は……ころ……?」
「……お前マジか。バカだとは思っていたが、ここまで? ちょっと笑えないな」
「なに、言って……? 殺すのか……!?」
「ああ……いや、少し違うな。加工するから死ぬことはないぞ」
どんな形にするか、顎に手を当ててうんうんと悩む。
「さ、『再─」
手元に現れた剣を奪い取り、口の横の地面に突き刺した。
「──」
「……そうだ! 自動販売機にしよう!」
「──!?!!?」
「そうと決まれば……」
加工するために触手を目に突き刺した。
◆
─ピッ
─カコン
「すごい! ボタンを押したらicチップが出てきた!」
「他にも色々出せるぞ? 例えば……ほら、液晶画面だ。作るのが面倒だから楽でいいな!」
「おお……! どんな人間でも誰かの役に立つんだな!」
天衣山の麓にある村の空き家の地下で、私はパルヴァーデに作った自動販売機もとい部品製造機について説明していた。
崩さないように脳を弄るのは相変わらず大変だったが、なんとか加工できた。生き物の力以外に、男が自分で作った回路で制御されてるんだから面白いよな。
「この右の穴に入れてたのはなんだ?」
「ああ、燃料さ。魔法にはエネルギーが必要だからな。残量はこの数字だ」
燃料を入れる小さな穴の下にある小さな液晶に『55%』と表示されている。
「0になったら壊れる?」
「いや、出てこなくなるだけだ。生命維持のための燃料は別にある」
「なるほど」
内側に藻と微生物の小さなコロニーを作ってあり、そこから栄養を取って脳と心臓に回してるから問題ない。一年間放置とかは流石に水が足りなくなるが。
「さて、明日は朝早いからもう寝ようか」
「分かった! でも最後にもう1回!」
─ピッ
─ガコン
「楽しい!」
「それはよかった」
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