観光
ルクス聖王国には観光名所が多くある。
多く、というか都市部全てが観光名所と言ってもいいほど美しい街並みをしている。
アトラ王国も美しかったが、こっちはこっちで白くなったサンゴみたいな美しさがあるな。
朝から色々な場所を回って、いつの間にか夕方になった。
「建物が真っ白で綺麗」
「確かに。この星じゃ白い素材は中々見ないから、かなり作るのが大変そうだな」
とても大きな城を見上げる。
他の星だと白い外壁のビルなんかは多かったが、この文明レベルにしては珍しい。
堀なんかも均一に造られているし水の流れが止まる場所は無い。
「この中に勇者がいるのか?」
「ああ、いるよ。なんなら今訓練中だね」
「まだ訓練してるのか? こういうのって実戦で覚えるものなんじゃないのか?」
「貴重な存在だからだろうな。誰だって無駄な消費はしたくないんだ」
「ふーん……」
城の周りをぐるりと歩きで一周する。
蝶越しではなく実際に見たが侵入は容易いな。ま、監視カメラも赤外線センサも無いんじゃこんなものか。わざわざ誰かを乗っ取る必要すらない。
まずは国王。その次に側近。そしたら適当な理由を付けて聖女を呼び出して……いや、場所は分かってるしな。
……龍とやらを知っていそうなのは聖女と一緒にいた男か。先にそっちにするか。
「うん、そろそろ帰る」
「そうか。楽しかったか?」
「うん! でも、歯車が動くみたいなのは無かったからちょっと物足りないかも」
「ハハ、マルス帝国は偉大だな」
◆
深夜。
黒猫に私の細胞を使って乗っ取り、建物の隙間を通って走らせている。
わざわざ私を混ぜたのは記憶を読み取るため、そして魔法による監視の目を欺くためだ。遠隔で記憶を読み取るのはかなり手間だからな。
監視の目の正体は魔法。目的は夜間に反信仰組織が集会をしていないか見るためらしい。
ネズミを使ったから分かるが、この魔法は王家で抱え込んでいる魔法使いが使っているものだ。寝ずにご苦労さまだな。
ついでに言うと、集会は家の地下から繋がる空間でたくさんやってるみたいだから意味なかったぞ。ご苦労さまだな。
あの男の家はここら辺……これか。
2階にある小さな換気用の窓から中に入る。
音を立てずに着地し、そのまま寝息の方向へ進む。
……この家、絵画ばっかりだな。彫刻とかは全然ないのに壁は一面が絵だ。落ち着けるのかこれ?
そんなことを考えながら寝室に入る。
「…………」
照明は完全に消して寝る派か。
近づいて猫の肉球から青いガラスの触手を伸ばし耳から脳へ突き刺す。
「──」
龍に関するのは……伝承とか神話の考察とか、こいつはこいつで色々やってんだな。
ま、そんなものは後回しだ。龍、龍……これか!
『
その姿、人眼には定かに見えねども、山の尾根を覆う濃霧こそ、かの御方の息吹なり』
……『天衣山』に龍はいるってことだな!
真面目な話、年中霧に覆われている山の洞窟の中とかそんな感じだろう。恐らく霧が無くなるタイミングで雨が降るとかか? これだけだと自然現象に龍を見出したように感じるが、多分本物だ。
天衣山の麓の村の言い伝え…………あれ、コレ神話とは別なのか。でも神話なんてのは大体後付けだし、こっちが正しいな。
龍探しに出掛けるのはいつにするか……暇だし明日にでも行くか?
◆
「あった、あれが天衣山だ」
「おぉ、本当に霧に覆われてる……!」
私たちが見つめる先には、山頂付近が濃霧で覆われ完全に見えなくなっている山があった。
「……不自然な霧だ。龍がいるのは間違いじゃないかもな!」
霧を出す能力、というよりかは天候操作の一種だろう。楽しいな!
「お母さんは龍を見たことがあるのか?」
「ない。……いや、見たことはあるのかもしれないが、今の私にその記憶はないからな。でも機械でなら見たことがあるぞ。生物としては恐竜くらいだな」
「恐竜? よく分かんないが、龍ってどういう生き物なんだ?」
「さぁ? 私も知らん」
めちゃくちゃデカい蛇が龍とされるとかなら楽なんだが、昔戦った機械龍は面倒だったしそれを想定しておくべきか?
「……とりあえず麓の村まで行ってみるか」
「分かった!」
早朝で人もいないので、2人でフワフワと浮遊して進む。
あのビームを放つ存在が本当にいるのかどうか……。あれがニンゲンの魔法となると力を手に入れるのは面倒だが、その場合はバイオスフィアに加工すればいい。
バイオスフィアで思い出したが、火の砲台がそろそろ寿命だ。作ったはいいけどあんま使わなかったな。
「……お」
「?」
「王国のヤツらが私たちの事を見ているぞ」
「!? どこから!?」
「具体的な場所は分からない。なんせカメラで見てるわけじゃないからな。だが……」
聖女の反応的に……。
空に向かって手を振る。
「い、いや大丈夫なのか?」
「問題ないさ。分かってると思うが今の私は城の中にもいる」
◆◇
「……『青き蝶』を見つけた」
講堂に集められた勇者の前で聖女はそう言った。
「んな……!? てかもう!? 蝶は今どこにいんすか!?」
真っ先に反応したのは竹シュンだ。
「天衣山に向かっている。……人間の姿で」
「人になれんすか!?」
「マジ?」
「……なんで分かったんですか? その蝶にしかない特徴とかあるんですか?」
瀬戸ヒカリが聖女に聞く。
「青き蝶には魔力が無い。故に人間を数える魔法で特定されなかった」
(魔力が無いなら魔法も使えない! なら俺のアイテムで余裕だろうな)
「……え、ちょっと待って。ウチらもう戦うの?」
「そうだ」
「マ、ジ……っすよね」
「ああ。だが、一度で倒しきれとは言わない。ヒカリのテレポートで何時でも戻ってこい」
「狙いは『青き蝶』。勇者達よ、戦え」
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