再現

 

伊藤アキは自らに与えられた『再現』を使い、訓練所で幾つものアイテムを作り出していた。


(この力があれば俺は無敵だ!)


今彼の手元にあるのは『ギアファイターズ・カムイ』という変身ヒーローもので登場する、主人公が物語終盤で手に入れた重要アイテムだ。


(この力でカムイのように世界を救うんだ!)


「なぁ伊藤、それって俺たちにも使えるのか?」

「……え?」

「だからそれ、その剣とか銃とか……なんだっけ、『ギアファイターズ』だっけ?」

「ウチらも使いたーいなー」

「みんなで戦うんだし、共有できたら戦力アップじゃない?」


伊藤アキは竹シュンたちに話し掛けられ、激しく動揺した。


何故なら、彼はを奪われると思ったからだ。


(コイツら、俺のアイテム目当てか!?)


「えと、悪いんだけど、これは俺にしか使えないから……」

「えマジで……?」

「ウワ、そういう感じ?」


竹シュンと大宮ライは残念そうな表情をして戻ろうとするが、瀬戸ヒカリは鋭い目で顎に手を当てながら会話を続ける。


「……でも剣とかは誰が使っても同じでしょ? すぐ返すから貸してよ」


瀬戸ヒカリは置いてあった細身のレイピアのような武器を取ると、少し離れた位置にあるマトに向かって振った。


グリップにあるトリガーを引きながら。


「!? おいっ──」


『TUKUYOMI! SLASH!!』


三日月のような紫色のエネルギーで作られた刃がマトを斬り裂いた。


「あれ!? え使えんの? 伊藤の誰でも使えんのか、すげぇな」

「……はぁ?」

「……」

「え何どしたん……?」


感心する竹シュンとは反対に、大宮ライと瀬戸ヒカリの心は冷えきっていく。


「シュン、コイツ嘘ついたんだよ」

「は? 嘘? ……?」

「僕さ、伊藤くんが誰かに武器貸してるの見たことないんだけど、なんで『俺にしか使えない』って言ったの?」

「そ、それは……」


瀬戸ヒカリは剣を片手に詰め寄る。


「あんまり言いたくないんだけど、『周りより優れた状態でいたかったから』とか? ねぇ、バカ? こっちは一秒でも早く日本に帰りたいんだよ? 君は帰りたくないの? 学校で空気だから? くだらない現実逃避は妄想だけにして。前から思ってたけど─」

「ちょ、瀬戸! ストップ! 伊藤は自分にしか使えないって思い込んでただけだって! な!? そうだよな!?」

「えあ、そ、そうだ! 俺の魔法だから─」

「にしたってさー、協調性無さすぎね? フツー皆にも使ってもらおうとか考えるじゃん。それが無い時点で終わってんだろ」

「おい! そんな言い方ねぇだろ!」

「竹くん否定はしないんだ」

「……っ」

「な……!」


竹シュンは伊藤アキの協調性には言及しなかった。それは暗に認めたようなものだった。


「あ、ああいぃ伊藤! お前がなんで嘘ついたか分かんねぇけど、俺たちはクラスメイトで、同じ日本人! だから隠し事は無しでいこう!」


話を逸らすように畳み掛ける。


「生存率? は、高い方がいいだろ! 俺たちにもなんか作ってくれねぇか!?」


逸らした先の話は正論で、伊藤アキは頷くしたなかった。


「つ、作るよ!」


(クソッ! ふざけるなよ……! 人間関係も容姿も恵まれてるのに俺からアイテムまで奪うのか!?)


先程の瀬戸ヒカリの発言が全てだ。


◆◇


愚かだな、落ちこぼれ!


ニンゲンの強さは集団でこそ発揮されるものだ! なのにお前は自らの劣等感を拗らせて目的を忘れてるじゃないか!


ククッ……! そんなんじゃ私は倒せないぞ?


ああ、本当に面白いニンゲンだ……!


「海が見える! お母さん!」

「ここの家を譲ってもらうの大変だったんだからな、感謝してくれ」

「分かった、ありがとう!」

「……今日は何食べたい?」

「色んな魚の刺身盛り合わせ!」

「ふふ、いいぞ」


2階のリビングに取り付けられた大きな窓ガラス越しに、水平線まで続く大海原を眺める。


老人夫婦からオーシャンビューの別荘のような豪邸は、2人の手によってリノベーションが終わったところだ。


「ところでパルヴァーデ、明日から少し観光に行かないか? ルクス聖王国には美しい建物と美味しい物があるらしいんだ」

「行く! 家にいてもやることないし」


ゲームでも作るか? ま、それは今度でいいか。


新しいキッチンに立ち、今海から採った魚たちを大きなまな板の上に乗せて捌き始める。


ワープ漁で鮮度抜群、ってな。


……ルクス聖王国の神話で『青き蝶』が私なら、『天翔る龍』というのもいるのか?


蝶がそのまま蝶なんだから龍も龍のことなんだろうが……そんな生物はシーサーペントくらいしか見てないしな。


逆にシーサーペントがいるなら、飛べるシーサーペントのような種族を龍としている?


神話通りならあのビームは龍から放たれたことになる。いてくれた方が私の力になるし面白い。だがニンゲン以外は魔法を使えないのだから龍という生物は……ニンゲン?


……ま、これから情報を集めればいいだけの話だ。


「あ、パルヴァーデ、タコも食べるか?」

「食べる! この前の胡麻和え美味しかったからそれにして!」

「そうか、日本で調味料を買った甲斐があったな」


魔法どうこうよりも先に次元移動を取り戻せるように動いていれば、もっと効率よく色々できただろうが……その場合はパルヴァーデは生まれてないし、この方が良かったな!

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