蹂躙

 

マルス帝国とワルキューレハイムとの関係は緊張状態にある。


正直言うと、別に戦争が起ころうがパルヴァーデに関係がないならなんでもいい。


蒸気機関によって駆動する多数の兵器があるからマルス帝国は負けない。これは確定事項だ。だから私たち帝国民はそこまで事態を深刻に捉えていない。


それに万が一負けそうになったら、私がワルキューレハイムを燃やしに行く。


「パルヴァーデ、シロイルカちゃん洗っておいたぞ」

「! ふわふわになった!」


パルヴァーデがぬいぐるみに顔をうずめて息を吸う。


女の子だなぁ。


がちゃ、と窓を開けて家に入る。


「ただいまー、なんてな」


ニンゲンの姿の方に飛び込んでひとつに戻る。


これで準備は整った。


実験場の場所も戦争の影響を受けない場所にあるし、パルヴァーデも学校は暫く休みになる……か? なると思う。



そもそも何故戦争が起こるのか。それはマルス帝国が鉄道を敷くため、ワルキューレハイムの方角へ国土を拡大したからだ。


国土を拡大、というか単純に環境破壊だ。


メサを抜けると森がある。この森の先には火山があるのだが、その火山付近には魔力を貯めておける特別な石がある。


この特別な石の名前は国によって変わるらしいが、マルス帝国では『魔力結晶』と呼ばれている。


つまり、国家の拡大と資源の調達を同時にやろうというわけだ。


ただワルキューレハイムの方がそれを許さず、徹底抗戦の構えを取っている。ワルキューレハイムにとっては森を破壊することも、魔力結晶を資源として使われることも神に対する冒涜なんだと。宗教的なアレだ。


「パルヴァーデ、観測機の調整はまだ時間が掛かるから休憩してていいぞ」

「休憩か。暇だなぁ」

「それならコレ見るか?」


大きなモニタに外の景色が写っている。


音声をスピーカーに変える。


『全機、最終点検!』

『完了しました!』

『よし! ではこれより国王陛下より、ありがたいお言葉がある! 心して聞くように!』


『……我々は最強の国家である。この蒸気機関と硬い金属の前には、奴らの魔法も神も、全て! 幻想に過ぎない!』


「……何、これ?」

「これから戦争ってところさ」


武装した兵士達と何台もの大きな戦車のような兵器が並び、皆が真剣に国王の話を聞いている。


やっぱこういうのを見てると、科学を効率よく使うために魔法を使うことが一番だと思う。


私から見たら蒸気機関なんて骨董品レベルだが、骨董品には骨董品の良さがある。この国はこれからも蒸気機関と歯車の国でいてくれたら面白いなぁ。


「こんなにたくさんの兵器があったんだ……」

「私としては兵士全員に銃が行き渡っていることに驚いたな。兵士これ何人いるんだって感じだろ? ワルキューレハイムもちょっと見たが、木と岩の防壁に弓矢とバリスタだからなぁ。あれはもうダメだ」

「ワルキューレハイムもマルス帝国の事は知ってるはずなのに、なんで降伏しないんだ……」

「ん、学校で習わなかったか? ま、宗教国家の恐ろしいところだな。マルス帝国の軍門に下るのは教えに反するんだろ」

「エルフ人がよく分かんない……」


『─目標はワルキューレハイムの制圧! 全軍、進め!』


瞬間、全ての兵士が雄叫びを上げて動き出した。


「おぉ、壮観だな〜」

「……」


パルヴァーデがぬいぐるみを強く抱きしめる。


「安心しろ、ここは安全だ。それにパルヴァーデに銃は効かないし、戦車に轢かれても……まぁ打撲くらいで済むさ」

「いやそれは分かってるけど……でもそっか、これが戦争なのか」


私が見た中じゃゆるい方だが、パルヴァーデはこの星のニンゲンだしなぁ。


「さて、そろそろ観測機の調整が終わる……んだが、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。よし! やろう」

「さすが私の娘」


ぬいぐるみをソファーの上に置いてパルヴァーデはリングの中に入った。


コンソールを操作して観測機を起動した。


「……よし、いいぞ」

「浮かべ!」


ソファーに置いたぬいぐるみが浮かび上がる。


さぁ……! 次元を特定してやる!



マルス帝国軍がメサを抜け森へと進軍した。


ワルキューレハイムは彼らが森へ来る前から事態を察知していたが、完全に手遅れだ。


エルフ人は多様な魔法による抵抗をするが、先行する戦車を止めるには至らない。雷の魔法は有効打足り得たが、戦車に搭載されているガトリング砲による遠距離攻撃の前には無力だった。


木と岩で造られた彼らエルフ人の防壁は、マルス帝国が誇る鋼鉄の兵器によって容易く破られた。


もちろんマルス帝国側に被害が無かったわけではないが、数える程だ。


戦争と呼ぶにはあまりにも一方的な蹂躙により、マルス帝国はワルキューレハイムを3日で制圧した。



「アーッハッハッハッハ!! 見つけたァ!」

「おお! やったなお母さん!」

「ハハハハ! あぁ、やったぞ! パルヴァーデもよくやった!」

「「やった! やった!」」


2人で手を取りあってはしゃぐ。


ククク……アーッハッハ! 待ってろ……! 必ずその能力を私が奪いに行く!


暫くそうした後、家に帰って食事の準備を始めた。


「パルヴァーデ、今日はご馳走にしよう! 何がいい?」

「とびっきり美味しいフルーツが山ほど食べたい!」

「ああ分かった! すぐ採ってくるから待っていろ!」


正面に空間を歪めて転移ゲートを作り出し、森へ飛び込んだ。

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