かわいい? いもむしさんじゅうごさい

 

私の力を取り戻すよりも観測機の性能をあげた方が早いんだが、別に同時進行でいい事に気がついた。


「という訳だから、私は森を喰い荒らしに行こうと思う」

「分け身でか?」

「違うな。もう並列思考が出来るようになったから、全て私だよ」


リビングでニンゲンの姿をした私が2人に増えた。


「お母さんが増えた……」

「言葉通りだが、なんか変なセリフだな」

「まぁとりあえずこっちは今から、この国を出て近くの森に行こうと思う」


私の半分を本来の姿に変える。


─どろり


「えっ、えっ、なっ、デカい芋虫……? それがお母さんの本来の姿……!」

「そうだ。美しいだろう?」

「ああ! 綺麗だ!」

「ちょ」


パルヴァーデが私を持ち上げて抱きしめた。


「あと顔も可愛い!」

「そ、そうか? そう言ってくれるのは嬉しいよ」

「顔文字みたいな顔してる!」

「可愛いの意味が思ってたのと違うな……」

「こう……紙に書くとこう!」


パルヴァーデが魔法で器用に紙に文字を書いて見せてきた。


『 <(・w・)> 』


「いや……………………まぁ、確かに? こんな顔だが」

「かわいい! ツノも!」


喜んでるからいいか……。



パルヴァーデも今年で学校を卒業する年になった。


来年から16歳か。早いなぁ。ニンゲンはこれくらいの年から恋人を作るというが、パルヴァーデはどうするんだろうな。


砂漠の実験場で機械が稼働するのを眺めながら、森で大きな竹をバリバリと食べながら、ハートギアの水を供給する仕事をする。


観測機の性能上昇のために必要なのは、今よりもずっと純度の高いシリコンだ。


現状は99.9999999999999サーティーン・ナイン%まで純度を高めることが出来たが、まだ足りない。昔見たのは9が20個くらい並んでいたと思う。だからそれを目指しているが、あと一年は掛かるかな。


というか、この高純度のシリコンを作る過程でほぼナノマシンみたいなのが出来たんだけどコレどうしようか。


シリコンの純度はともかく、森での捕食と食事はかなり上手くいっている。


最初のうちは大木を喰ってばかりだったが、途中で超巨大な竹やぶを見つけたことにより、それを喰い続ける方向にチェンジした。


流石は熱帯雨林と言うべきか、竹の成長が止まるような時期がほぼ無かった。止まっても次の晴れた日にはまた何本も生えてくるような植物だ。私の力をかなり取り戻せた。


味には飽きたが。


観測機自体も設計を見直すべきか迷っている。


今はリングの中にパルヴァーデが入ることで360°から観測しているが、体に取り付けるようなものでもいいかもしれない。


「ヴェスティさんヴェスティさん、知ってますか? あの事」

「あの事?」


仕事の休憩時間で男が話しかけてきた。


この男とは割と前からこの仕事をしている……ような気がする。あまり覚えていない。


「もしかしてあれか? このマルス帝国がワルキューレハイムに戦争を仕掛けるかもしれない、ってやつか」


そういや少し前から、鉱山で鉄とかの武器に使われる金属類の採掘量めっちゃ多くなってた。巨大な船、というか装甲艦も完成間近だったし噂はほぼ事実っぽいな。


「そうですそうです! もしかしたら俺たちも戦争に駆り出されるんじゃないか、って皆不安で不安で」

「あの陛下がそんな事するか? 普通に兵士だけで十分じゃないか?」

「いやいや、ワルキューレハイムですよ? あっちはこっちと違ってほぼエルフ人の単一民族ですよ?」


エルフ人……魔法使いとしての戦いを重視している民族だったか?


「相手が魔法使いだからって、こっちがそれに合わせる必要は無いだろ。この国のガトリングとスチームタンクだけで完封余裕だと思うんだが」


装甲艦作れる技術があるなら遠距離から砲撃し続けるだけでほぼ勝ちなんだよな。


「……ヴェスティさんって、魔法使いの割に魔法関係ない武器好きですよね」

「スチームガトリングの蒸気機関は水と熱がいるだろう? ほら、魔法の出番だぞ」

「水はともかく、最近は熱を薪とか石炭で代用できるんじゃないかって言われてますけど……」

「薪と石炭はススが出るから環境に悪い。魔法の方がいいさ」


私みたいに空間に存在する分子を操って熱を発生させる、とかじゃない限りは魔法の方がいいな。


そう考えると魔法も大概おかしいな。魔力は4次元からのエネルギーなのか? ……いや、だとしてもニンゲンに扱えるレベルに落としている奴がいるよなぁ。


……うん、やっぱりそいつの力に興味がある。


「俺たち魔法使いってこのハートギアを動かすだけなのかな……」

「全く……お前みたいなのが戦争に行ったらすぐ死ぬぞ? いいのか?」

「良くない良くないです! でもぉ……!」

「めんどくさいなお前……」

「だって、折角魔法を勉強したんだからなんかこう、この国の役に立ちたいじゃないですかぁ」

「ハートギア動かして、この国の水を供給して、それで役に立ってないとは誰も思わないだろ。なぁ?」


そう言って周りを見れば、話を聞いていた他の魔法使いが頷いた。


「……そつかぁ! そうですよね! 俺もちゃんと役に立ってる! ありがとうございます、ヴェスティさん。俺ちょっとビビってました」

「ま、不安になるのも分かるさ。私も娘がいるからな」

『娘!?』


休憩中の全員が反応した。


「なんだ皆して。……言ったことなかったっけ?」

「いやいやいやいや! 聞いたことありませんよ一度も! 娘さんお幾つですか!?」

「15だ」

『はぁ!?』

「またか」

「待ってください! ……え、じゃあ失礼ですけどヴェスティさん今何歳ですか?」

「35だな」

『!!??!?!?』


……この国の35にしては若いか。私は細胞の劣化なんてしないからな。見た目を意図的に変えない限りは不老だし。


反省点か。

 

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