呆気ない戦い
大きな火球をスライディングで躱す。
「ならもう1─」
起き上がると同時に触手と膜を広げ、後方の爆発の風を受けて勢いよく前に飛ぶ。
その勢いのまま男の顔に蹴りを放つ。
「がっ─!?」
「魔法の使い方が下手なんだな? 火はもっと強いぞ?」
「黙……れっ!」
吹き飛んだ男はすぐに起き上がり、また剣で攻撃してくる。
横振りはしゃがみ、袈裟斬りは右へ跳び、突きは杖で逸らす。
うーん、弱いニンゲンだなぁ。……いや、パルヴァーデが強すぎるだけか? にしたって格上への挑み方としては最悪だな。
「撃て」
─ドン! ドドドン!
火山が噴火するかのように、火の砲台から幾つもの火球が撃ち出される。
「お前っ!!」
「本当は君なんて簡単に殺せるんだぞ? だってニンゲンの姿をした私の蹴りを2回もくらうってことは、触手で100回は刺せるってことだからな」
「っ……!」
男は空から落ちてきた火球を躱す。
「はい3回目」
─ドゴッ!
「がァっ!?」
「うーん……」
やはり魔力が送られてくる次元を特定するには、私の力も観測機の性能も足りないんだよなぁ。
たくさん喰って私の力を取り戻す方法しか無いのか? それだと一体何年掛かるのか……目の前にある答えにたどり着けないなんて、ストレスでおかしくなる。
しかし、そうなると観測機をグレードアップさせなくてはいけないが……それも時間掛かるし。
手首から3本の青いガラスの触手を伸ばし、男を縛り上げる。
「離せ……!!」
……というかそもそも、別次元からのエネルギーをニンゲンが安全に扱える量だけを送るという事実を詳しく調べるべきか。
エネルギー自体、魔力の正体は単純なものだ。宇宙によくある量子的なゆらぎによる生成と消滅を繰り返した『真空のエネルギー』に近いものだ。
火、水、雷、重力、金属。生成と消滅のバランスを変えることで、それらを扱う魔法を引き起こしているのだと考えられる。だが、ニンゲンの体の中でそれが起こっているわけではないしなぁ……。
「おいっ……!」
「んー、君は魔力が何処から送られてくると思う?」
「何、を……!?」
「何故ニンゲンにだけ魔法が扱えるのか、というのも関係があるのかな? ……なら、あのビームは本当に何なんだ?」
真空のエネルギーに近い魔力というものを、更に私の知らないエネルギーに変換したニンゲンがいることになるんだが……。
……アハッ、欲しいなぁ!
男を放り投げる。
地面をゴロゴロと転がり止まった。
「そういえばお前、ヴァーデレ・クローンはどうした?」
「ク、ローン……?」
わざわざ説明してやる義理もないからなぁ。
「てっきりアレも連れてきていると思っ─」
触手を後ろに振るう。
─キィン!
甲高い音と共に女の手から離れた剣が空中へ吹き飛んだ。
「そんなっ……!?」
「久しぶり、でいいのかな?」
空高く舞い上がった剣を触手で掴み、女に振り下ろした。
「わわっ……!」
「あれ、今の躱すのか」
絶対当たったと思ったんだけどなぁ。
首を傾げながら振り返り、何年ぶりかになるヴァーデレ・クローンを視界に入れた。
「おぉ、立派に成長したな」
コイツを喰えば私の力もそこそこ取り戻せそうだ。
「っ!」
地面を蹴って私に距離を詰めてから、隠し持っていたナイフで首を狙ってきた。
「怖い怖い」
「──!!」
青い触手を心臓に突き刺し、全身の細胞から栄養と力を奪う。
……20人分ってところか。一つの町を丸ごとクローンにして、何年か放置した所をっていうのは昔やったことあるしなぁ。
普通に喰うよりかは効率がいいんだが、今の私の力でやるなら普通に喰う方が早いし……かといって簡単に出来るようになる頃には喰う必要がないし。
触手を抜いた瞬間、クローンがぱたりと地面に倒れた。
「プレーダ……!」
「ヴァー、デ─」
「あ、そうか! この星のニンゲンに対してだけ魔力を送る理由がなにかあるのか!? それを調べれば、何処からどうやって送っているのかがわかるんじゃないか?!」
─ザシュッ!!
えーっと、纏めよう。
ひとつ、魔力とは別次元から送られてくる真空のエネルギーに近いエネルギーである。
ふたつ、今の私と観測機では、魔力が何処の次元から送られてきているのかを特定できない。
みっつ、魔力はニンゲンの心臓から脳に移動し、脳が魔法を発生させる。
よっつ、魔力は更に未知のエネルギーへ変換できる。
そして現状の問いは『何故ニンゲンにのみ魔法が使えるのか』『ニンゲンに魔力を送る理由は何か』『何処から魔力が送られてくるのか』だけだな!
よし、ストレス発散できたし、考えも纏まった。
倒れた2人を視界に収めることもなく帝都へ歩き出した。
◆
「パルヴァーデ、ただいま! 帰りにマグロ狩ってきたぞ!」
「おかえ、なんでマグロ!? え、あの男の人はどうしたんだ!?」
「あー、男は殺してきた。女は生かした」
日付が変わる前に家に戻ってきた。
途中で海に寄って適当にマグロを狩ってきたので、大きな冷凍庫にそのまま突っ込む。
設定温度をマイナス50℃まで下げる。
「女? えーっと、お母さんはその人は殺さなかったのか?」
「直接はな。『なんで?』って顔だな。理由ならあるぞ」
「それは一体どんな……?」
「女は私の細胞を変化させて作ったクローンみたいなもので、ってああ、クローンっていうのは複製品みたいなものだ。それで、そのクローンはまだまだ成長の余地があるから生かした」
「……成長した後は」
「喰う」
「……その、すぐにここに来るんじゃないか? こういう事言うべきじゃないんだろうけど、お母さんへの復讐で巻き込まれるとか私は嫌だぞ?」
「安心しろ。また成長するまでここに来ないように思念を送ったし、来てもヘビとサソリに襲わせるさ」
リビングに広がっていた私の一部を回収し、ヘビとサソリを窓から外に逃がす。
手を洗い、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出して飲んだ。
「さ、お風呂に入るぞ。砂で汚れたから服も着替えてくれ。ご飯はその後な」
「分かった。手伝うよ」
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