観測機とニンゲン

 

パルヴァーデが学校に通い出してから3年、漸く観測機が完成した。


材料が集まるのは早かったが、半導体を作るのにかなり手間取ってしまった。


時間自体はあったからそこまで問題でもないがな。仕事中、家事中、夜、と体内で半導体を作りその半導体を使った小さな機械で半導体を作る機械を作り……みたいな感じで。


「それじゃあパルヴァーデ、ここに立ってくれ」

「分かった」

「……よし、魔法を使ってくれ」

「上がれ!」


帝都から離れた位置にある秘密の実験場。その中にある大きなリングの形をした観測機の中心で、パルヴァーデがリングの外側に向かって魔法を使う。


リングの外側にある鉄の塊が持ち上がったと同時に、私はモニタの前で表示されるグラフを確認する。


いいぞ……! 正常に動作している! やはり心臓だ!


─カタカタ


メーターの変化に合わせて微調整をし、パルヴァーデの中に眠る未知のエネルギー、『魔力』の輪郭が徐々に顕になる。


心臓から脳へ何かが流れている! もう少し……もう少しで……!


「なっ!? これ、は……!?」


モニタに表示された観測結果を前にして操作する手が止まった。



「ククッ……アハハッ……アーッハッハッハッハッハ!!!」

「お、お母さん?」


なるほど、まさかだ! 予想はしたが本当とはな! あぁ、どうりで私が魔力を発見出来ないわけだ!


「ああ、もういいぞパルヴァーデ」

「う、うん。その反応だと、魔力が何か分かったんだな?」

「もちろんだ! 魔力の正体は別次元からのエネルギーだ!」

「別次元……?」


アーッハハハハハ!!


ニンゲンが別次元からのエネルギーを使うか!


いるなァ!


がなァ!


「アハハハッ! アハハッ! ……はぁー、パルヴァーデ」

「なんだ?」

「明日もいいか? 次元の歪みを逆探知してみようと思うんだ」

「分かった。でもその代わり、私にもその次元の歪み? とやらを教えてくれ!」

「ああいいぞ。全てを教えようじゃないか!」


ククッ、あはーっ……!


今日はこの歪みを解析して、もっと……詳細を……!



私はあらゆる次元を渡り捕食を行う侵略種だ。


次元を渡るためには次元に穴を開ける、つまりは空間と時間を思うがままに操る力があった。


力を失う前は次元の歪みから、空間がどこと繋がっているかが瞬時に理解できた。


しかし……今の私にその能力は無い。


観測機にも……その機能は無い。


「……ッッッ!!!」


─ドゴンッ!


壁を殴りつけた。


クソッ!! 何処だ!? 何処の宇宙だァ!!??


「お母さん……」


初めて魔力を観測したあの日から1ヶ月が経つも、どの次元から送られてくるエネルギーかを掴めずにいた。


「その、少し休憩しないか? お母さんずっと外出てないだろう? だから─」

「黙ッ…………………………フー……ッッ……! ……ごめん。パルヴァーデの言う通りだな。行き詰まるのも研究には付き物か……」

「う、うん! 一度散歩にでも行こう!」

(し、死ぬかと思った……!)


はぁ……パルヴァーデを殴る所だった。ダメだな……娘に当たるなんて。


…………?


……ああ、そうか。娘がいるとこんな感じかぁ。



冷たい風が吹く夜のメサを手を繋いで歩く。


夜とは思えないほどに輝く空がそこにある。


「……綺麗だな」

「お母さん、落ち着いた?」

「……その、ごめん。私のために頑張ってくれているのに、私は君を傷つけようとした」

「いいよ、許す」


娘はいつの間にか成長していた。


産まれた時の何倍も大きな背、長く美しい髪に、ニンゲンの姿の私によく似た顔立ち。


「早いな……ニンゲンは」

「……この際だから聞くが、お母さんは人間じゃないんだよな?」

「そうだが……それは今まで何度も伝えてきたぞ?」

「……私には、お母さんが人間と同じ心を持っているように感じる。だってそうじゃなきゃ、私はこんなに温かい暮らしは出来ていないから」

「ニンゲンの心……? 私にニンゲンのような愚かな生物と同じ心があると?」


少し声を低くして言うと、パルヴァーデは肩を震わし慌てて否定した。


「あっ、ち、違っ─」

「─アッハハ! 冗談だ」

「お、お母さん!」

「悪い悪い。だが、私の心はニンゲンとは違うというのは本当だ。侵略種ヴェスティ・アニマル、それが私だ。私はこの先もパルヴァーデ以外のニンゲンはきっと、そこら辺の犬猫と同じような生物としてしか認識しない。簡単に殺すぞ」

「お母さんにはやりたいことがあるんだもんな……」

「ああ。進化のためなら等しく喰らう」


パルヴァーデが私の手を握る力が強くなる。


「私の友達は見逃してほしい」


力強い声でそう言った。


「……ククッ、パルヴァーデが寿命で死ぬまでは何もしないさ。なんなら─」


─ザッザッ……!!


「────!」


誰かが遠くから凄い勢いで走ってくる。


水の杖と火の箱を装備する。


背中から生やしたタコの触手と膜でパルヴァーデを包み、切り離して近くのヘビやサソリたちに家まで運ばせる。


『お母さん!? 何を!?』

「─なんなら……守るさ! パルヴァーデが生きている間、私は『お母さん』だからな!」


「うおおおおお!! 死ね! ニセモノ!!」


両手で振り下ろされた剣を杖で防ぐ。


火花が散る。


「軽い軽い! 背がデカくなっただけか? プレーダァ……?」

「黙れッ! お前の声は聞きたくない!」

「ああそうなん、だっ!」


剣を弾いて前蹴りで突き飛ばした。


「アーッハハハハ! 久しぶりだなぁ……!」


宇宙まで追いかけてきたアイツらを思い出すよ、その復讐に呑まれた空虚な目はさァ!

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