第4話 影と光の練習室

デュオ・パフォーマンス大会のペアが発表された日から、私は落ち着かない毎日を過ごしていた。


相手は、あの彼。


クラスでも一目置かれる実力者で、けれど何を考えているのか分からないミステリアスな存在。


練習室に入ると、彼はすでに鏡の前で動いていた。


音楽も流していないのに、リズムを刻むように身体を操っている。


無駄のない動き、目を奪われる表現。


まるで、舞台の上に一人だけ立っているみたいだった。


「来たか」


振り向いた瞬間、その瞳に射抜かれたように心臓が跳ねる。


「き、昨日の課題曲、練習してきた?」


「もちろん」


彼は短く答え、音楽を流した。


そして私の隣に立ち、自然に呼吸を合わせてくる。


近すぎず、遠すぎず不思議な距離感。


歌声が重なると、まるで二つの色が溶け合うみたいに響いた。



「悪くないな」


練習を終えると、彼は淡々とそう言った。


「で、でも、まだ全然…! 私、もっと合わせないと」


「合わせる必要なんてない」


「え?」


「お前はお前のままでいい。俺はそれに合わせる」


自信に満ちた声。


でも、それ以上に、どこか諦めのような冷たさも感じた。


「…どうしてそんなこと言うの?」


「さあな」


彼はそれ以上答えず、窓の外へ視線を向けた。



帰り際、彼がふと呟いた。


「俺と組むのは大変だぞ」


「え?」


「光の裏には、必ず影がつきまとう」


「……」


「それでも――一緒に輝けるか?」


挑発なのか、本音なのか。

分からないまま胸が高鳴る。


---


その夜。

SNSにはすでに「大会ペア一覧」が拡散されていた。

私と彼の名前は並んで表示され、コメントが飛び交う。


「期待してる!」


「正反対の二人って面白そう」


「でもあの彼、何か怪しいんだよな」


画面を見つめながら、私は思った。


彼の影を知りたい。


その奥にある、本当の光を。


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ひっそりキラリ 木咲 美桜花 @miokakisaki

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