雪うさぎ

 雪の降る、夜の公園。


 星空を無視し、ベンチに座って項垂れる。

 かじかんだ手を目の前で合わせて、肺で温まった空気を吐き出した。


「今日も疲れた」


 返事は来ない。私は公園で独り言を言っている痛い人だ。


 その自分の哀れさを想像して、自嘲気味に鼻で笑う。


 風が私を馬鹿にするように通り過ぎていく。


「寒い」


 パタパタ、パタパタ、パタパタと、風は耳に違和感まで残していった。


 音の発生源を探すと、すぐに見つけた。


 街灯の下にあった、雪うさぎの緑色の耳が原因だった。


 その雪うさぎはよく出来ていて、赤い木の実の目までシッカリとあった。


「可愛い」


 そう言うと、言葉が通じているのか。嬉しそうに雪うさぎは身震いした。


 そう思ってる私は相当やばいなと思ったが、誰もいないから良いだろう。と、諦めて、夢の世界に浸った。


「よし、雪うさぎ! 仲間を探しに行こう!」


 声を抑えて、掛け声をあげると、雪うさぎは立ち上がり、私の周りをぴょんぴょんと飛び回った。


 砂場の周りに二匹、親子の雪うさぎを見つけた。


 滑り台の下は雪うさぎの住処なのか、雪うさぎが五匹もいた。滑り台の上にも一匹。


 鉄棒の脇に一匹。トイレの横には二匹。


 そのどの雪うさぎも、私が、行こう! と言うと、全員立ち上がって着いてきた。


 だが、三台ある内の一台のブランコの上に居座っている雪うさぎは違った。後ろに着いてきた雪うさぎたちも、ブランコには行きたがらない。


 この公園のボスか!


 私はすぐにピンと来た。


 後ろを見ると、心配そうに私を見ている雪うさぎたちが視界にうつる。パンッと頬を叩いて、心配させてごめんと、笑顔を作る。


 私はボスとの対面に少し緊張していたみたいだ。


 雪うさぎたちの声援を背中に受けて、前を向く。


 ボスとの対面だ。


 ブランコの敷地に入ると、ブランコがギィギィと揺れる。


 ボスうさぎの眼差しで、私は萎縮する。


 そして、ボスうさぎの後ろに雪うさぎだったものが、大量に盛られていた。


 雪、緑色の葉っぱ、赤い木の実。大量に盛られていた。


 これがボスのやっていい事なのか。


 私は、盛られた雪うさぎの無念を胸に、ボスうさぎに向き合う。


 一歩一歩、ボスうさぎに近付いた。


 ボスうさぎは怖がらない私の圧に押されて、ブランコの台から後退する。すると、ブランコはギィと、ボスうさぎを支えきれずにひっくり返った。


 あっ! と、声を出すと同時に、ベチャっとボスうさぎが地面に落ちて潰れた。


 私はボス戦に勝利した。雪うさぎたちが私の勝利を祝って、私の周りを回っていた。


 勝利を祝ってくれる雪うさぎたちには悪いが、私はブランコから落ちた雪うさぎをかじかむ手で抱き寄せて、ブランコの横で形を整えてやった。


 そこにはボスの威厳なんかない。普通の雪うさぎがあったのだった。


「行こう」


 そう言うとボスうさぎも立ち上がり、雪うさぎたちの輪に入った。


 ボスうさぎに倒されていた雪うさぎたちも、一つ一つ形を整えて、復活させていく。


 手が痛かったが、構わずに雪うさぎを蘇生させた。


 雪うさぎたちは、死に別れた友との再会に喜んでいたが、私が出来るのはここまでだ。


 雪うさぎたちに見送られながら、私は公園を出た。


「今日の星空は綺麗だ」


 見捨てた星空を見上げて、綺麗と言葉にしている自分がいた。


 これは……まだ明日も頑張れそうだな。

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サクッと読める掌小説 海の紅月 くらげさん @sugaru4649

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