役不足
散々な毎日だ。
……いや、「散々」という言葉すら生ぬるいかもしれない。
ただ、だらだらと過ぎていく。
何かが変わる予感もなく、朝が来て、夜が来て。
それを繰り返すだけの日々。
僕の最初の使命は、「人の役に立ちたい」だった。
小さい頃、テレビの中のヒーローに憧れていた。
困ってる人がいれば駆けつけて、泣いてる人がいれば笑わせる。ヒーローはいつも、迷わず手を差し伸べる。
それがカッコよくて、眩しくて、だから僕も
「大人になったら、あんなふうになるんだ」
と心の底から、信じていた。
……なのに、気づいたらどうだ。
僕は、ヒーローになっていく人を、ただ見守るだけの役に成り下がっていた。
拍手を送ることはできる。
羨ましそうな目で見上げることもできる。
でも、あの場所には立てない。
手を伸ばせば届くと思っていたはずなのに、
その距離はいつの間にか、地平線の向こうまで離れてしまっていた。
どこで僕は間違えたんだろう。何度も思い返した。
人生の道で、楽な道に逃げたことはある。
でも、それなりの険しい道を、震える足を前に出して、選んだことだってある。
それなのにどうしてだ。
ずっと楽な道を歩いてきた奴が、
僕が目指していたヒーローになってしまっていた。
その光景に、どうしても納得がいかない。
「なんでだ」
「どうしてだ」
そんな言葉が口癖みたいに口から出てくる。その言葉を吐く度になんだか自分が小さくなっていく。
才能なのか?
環境なのか?
それとも生まれつき持っている運か?
じゃあ……全部ないやつは、どうすればいい?
努力か? 根性か?
ヒーロー、お前らはそう言うよな。ああ、そうかもしれない。
でも、その努力を積み重ねても、
報われないことがあるって、僕は知ってる。
だって、僕がそうだからだ。
僕だって、足を止めなかった。
何度も転んでみせた。
転んで、泥まみれで、笑われても立ち上がった。
凡人になりたくなくて、ヒーローになりたくて、
でも、立ち上がった先に待っていたのは拍手じゃない。
「お前はそこまでだ」とでも言うような、冷たい現実だった。
人混みの中で、僕は透明になった。
誰の視界にも映らないまま、すり抜けていく。
まさにモブA。物語の隅にいて、名も呼ばれない役。
それが、僕に残された唯一の役だった。
いなくても、何も変わらない。
……それが今の僕だ
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