夏休みの宿題
部屋の中まで雨の音が聞こえてくる。
夏休みは、遊びに遊んだ。
初日に、机に綺麗に積んだ宿題。
夏休みが残り三日でも、その宿題は綺麗に積まれた状態で残っている。
表紙をなぞれば、ホコリがつくぐらいには、そこに置いてあった。
「今日、晴れたら夏祭りに行かないか?」
へぇ〜まだ祭りとかやってるんだ。と、メッセージが飛んでくる。
「そこで伝えたいことがある」
「今じゃダメ?」
「今でも良いけど」
寝そべっていた身体を勢い良く起こし、急に喉が乾いていると自覚して、息を整える。
「待って、祭りの時でいい?」
「そう?」
何故かホッとしてる自分に情けなくなる。
雨は上がり、祭りは予定通り行われる。
俺は三十分前には集合場所に着き、少しはオシャレにも気を使った。
十分前にソイツは現れた。出店の灯りに照らされて、着物をきたソイツに俺は目を奪われた。
そして隣りにいる。ソイツの彼氏にも目を向ける。
彼氏彼女の関係ではないらしいが、仲睦まじい幼なじみというものらしい。
幼なじみの顔を見ているソイツの顔を見ていると、胸がキュッと苦しくなるのを感じる。
俺を見ろよ。と、強制したくなる。
俺に笑顔を向けて、今日はカッコイイじゃん。の後に、宿題は終わった? と、おちょくってくる彼女に、明日には終わると息巻いて彼氏に視線をやる。
俺よりもイケメンで、俺よりも落ち着きがあって、明らかに俺よりも背が高い。
彼女は言う。
最近幼なじみと付き合ったと言う
あぁそうかよ。じゃあ行こうぜ。と笑顔で会話を切った。凄く辛いはずなのに、凄く軽い笑みでやり過ごす。
この三人で集まることは良くあった。
でも、二人して幼なじみには興味ないという言葉に少しの安心感があった。
彼女が幼なじみの男を好きなのは感じていた。彼氏が幼なじみの女を好きなことは感じていた。
最初から叶わない恋だとは思っていた。
今日は友達として楽し……。
「ごめん」と、前置きして、今からやらないと宿題終わりそうにないわ。と、後付けする。
「お前らに頼みがあるんだけど、宿題……」
好きって言わなくても、好きが終わる。
「だよな。自分でやりますよ」
伝えたいことってそれ!? と、非難を浴びて、カップルから離れる。
小さな花火が咲く帰り道。
近くで鳴る爆音は、何故か遠くで鳴っているように感じて、なんとも不思議な空間に包まれていた。
家に帰ると、夏休み初日に綺麗に積まれた状態で残っている宿題を、初めて手に取る。
ざらっとしたホコリが丸まり、ポツポツと三滴、水がプリントに掛かる。上を見ると雨漏りもしていない。
可笑しいなと、再度プリントを見やる。
ポツポツ、ポツポツと、ここだけ雨が降っていた。
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