線香花火の匂い



 線香花火は綺麗。


 その綺麗さは、あっという間に終わってしまう。そして、この時間もあっという間に終わってしまう。


 火の玉が落ちるまでの時間なんて、ほんの数十秒。

 儚くて、切なくて。

 だからこそ、私は惹かれるのかもしれない


 君と並んでする線香花火は、小さな火の玉が、落ちないように、ただ必死で支えている。

 それでも、いつかは落ちる。


 肩が、少しだけ触れて、心臓が痛いくらい高鳴った。


 君の顔を見る時間は一瞬。ほんの一瞬だった。

 まるで、火の粉が落ちて弾ける瞬間のよう。驚きに暮れて終わっている。


 君は、線香花火を不器用に持つ。それを私は愛おしいと思いながら、夢中になっている君の顔を見つめる。

 その真剣な顔に思わず口角が上がった。


 この時間は残酷だ。もう終わると思っていながら、ずっと居たいと願ってしまうのだから。


 君の火の玉は、今も目の前で揺れている。

 君の声も、君の笑顔も、この瞬間しか見れない顔。

 だからこそ、惹き付けるんだ。


 夜風に揺れて、火の粉が星のように散っていった。落ちて弾ける瞬間の悲しそうな顔は、可哀想で可愛かった。



 線香花火は綺麗。

 消えるからこそ、綺麗。

 君と過ごしたこの時間も、きっと同じ。


 短い時間だからこそ、ここまで大切に思うんだろう。



 二人だけの花火大会の帰り道、車の喧騒が遠くに消えて、カランカランとなる下駄が段々と遅くなる。手が微かに触れると、とたんに私たちだけの静けさができた気がした。


 心はトクントクンと、お祭りのお囃子のごとく、早鐘を鳴らしている。


 線香花火があった時よりも、顔を見れそうにない。暗い夜道でも顔が赤いのがバレてしまいそうだったから。


 きっと私は、この夜の匂いを思い出すだろう。


 胸の奥に残って、忘れそうにない。

 夏が過ぎても、冬になっても。

 君が思い出になっても。


 煙の甘さに混じって、君の声が残っているようで。


 花火の残り香は、恋の匂いだ。







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