机の上のアクアマリン



 すん、と花粉症気味の鼻が良く通る。


 私は息を吸うことを諦めていた鼻で大きく息をした。


 両手を天井に向かって思いっきり突き出すと、うぅんと、伸びをする。


 今日も今日とて、授業中に寝てしまっていたようだ。


 温かくなってきた季節なのに、今日は冷えるなと思っていたら、ポツポツと、今朝見た天気予報にはなかったはずの雨が降ってきた。


「傘持ってきてないな」


 いつもはバッグの隅に折り畳み傘を常備しているのに、今日だけは忘れたというポンコツを噛ましている最中だ。


 星座占いのついでに見た今日の天気予報を恨みつつ、帰りには止むかなと、やけに自信がある未来を予言しておくことにしよう。


 私は瞼を閉じて、二度目のタイムリープをおこなった。




 天気予報で感知されなかったぐらいの雨。


 通り雨かと思っていたが、あれから放課後まで雨は絶え間なく降り続く。


 もう頑張らなくて大丈夫だよと、教室で待ちぼうけている私は雨を称えて、「良くやった」と声に出した。


 声に出しても好奇な目で見られることもない。放課後の教室には私一人。


 タイムリープの時間設定を間違えたらしい。あともうちょっと早かったら、友達の傘に入れて貰えたと言うのに。


 職員室に傘を借りに行くか、傘を刺さずに帰るか、雨が降り止むまで待つか。その三択が私の頭の中で反復横跳びしている。



 机の上にいつの間にかあったアクアマリン。そのアクアマリンは私が頭を抱えている姿を見て、ぷるんと揺れた。


 私は窓を閉めて、アクアマリンと相対あいたいす。


 デコピンをすればアクアマリンはあっという間に崩れ去る。だが、私は寛大だ。暴力で解決はさせない。


 笑ったことを謝罪すれば、生かしてやろうと言うのだ。


 デコピンをアクアマリンの前にセットして、私は謝罪を要求する。


 アクアマリンは「恐喝だ!」と、ガクガク震えながら言っていたが、私の机の上では私が法律だ。


 くっ、とアクアマリンが歯を食いしばったところで、ふと外を見ると雨が止んでいた。



 窓を開け、再度確認する。雨が止んでいた。


 机の横のカバンを取り、立ち上がる。


 私は家に帰ることにする。



 教室の扉を開けるとアクアマリンに振り返り、「命拾いしたな」と言っておいた。



 アクアマリンは冷や汗をかきながら、安堵で震えていた。








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