永遠と錯覚


 ……無くした者の大切さは、最初から分かっていたんだ。ほんとうに。


 でも、人は失わないと気づけない生き物なんだろうか。

 手を伸ばせば触れられるときには、

 その温もりが永遠にあると、どこかで錯覚してしまう。


 ひとつ。

 ふたつ。

 みっつ……と。


 数を重ねるみたいに、君を好きになっていった。

 私の好きという気持ちは、ゆっくりと積み重なって、気がつけば、もう戻れない場所まで来てた。


 でも、だけどね。君の恋には……。

 あらかじめの、タイムリミットがあったんだね。


 私だけが知らなかった。

 気づかないふりをしていたんじゃないの。

 ほんとうに……その方が、ずっと楽だったから。


 君は私から遠ざかっていく。

 私の言葉ではもう、君を振り向かせられない。

 頷いてくれない。笑ってくれない。


 それがどうしようもなく、悔しかった。


 思い出してほしいの。

 君が発した好きの端々に。

 そんな些細な大切な言葉が、どれほど浅はかだったか。

 失ってから知るなんて、残酷。


 ねえ、君は最後まで、きっと優しかったんだと思う。

私に背を向けることさえ、精一杯の優しさだったんじゃないかな。


 でも、私はそれを責めてしまった。答えを求めて、答えを奪おうとして、結局、君は沈黙だけを残した。


 人は、どうして大切なものに「終わり」があると知りながら、守りきれないんだろう。

 私の手の中から零れ落ちたのは、ほんの少しの無関心と、ほんの少しの愛情と、そして、ほんの少しの臆病さ。


 それが私から贈れる最後のプレゼント。


 無くした者の大切さは、最初から分かっていたんだ。

 ……けれど私は、それを守れなかった。


 ねえ、もしも、また君と会えたなら、

 私はきっと、何も言わないだろうな。

 ただ、通り過ぎて、気まづさを共有するだけ。

 それでいいんだ。

 私は言葉を求めすぎたから、次こそは失敗しない。


 だから今もこうして、君への想いを空へ注いでいる。

 君がもう頷いてくれない想いを、笑顔になってくれない想いを、少しづつ、少しづつ。


 淡い想いは、青い空に滲んで溶けていく。



 それだけで私の体は、少しだけ軽くなった……気がした。


 







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