愛しているという弱さ


 愛しているという弱さ。


 愛しているから、仕方ないんだって。

 でも、ねぇ、本当にそう?

 寄り添ったら、離れるくせに。

 どうして? どうしてそんなことができるの。


 君は優しさの仮面をかぶったまま、当たり前みたいに私を縛る。『大丈夫』って君が笑うたび、胸がざわつく。

 大丈夫じゃないって、わかってるくせに。

 君のその笑顔を見るたび、なんで君を好きなのか分からなくなる。

 なのに、好きでいることをやめられない。


 肌を重ねる度に安心した。その腕の中なら、体が軽くなった。

 君とならどんなことでも乗り越えていけるって、未来を夢見た。


 でも君に対してだけは清純でいたいのに、どこかで思ってしまう。……安心するなら、誰でもいいんじゃないかって。


 その醜さを塗りつぶして、私は必死で君を抱きしめる。しがみついて、君の名前を言って、何度も確かめる。


 塗りつぶした跡が黒く残るたびに、私の心は、君に割く容量が小さくなっていくように感じた。


 君は軽い女が好きなんだね。

 何も心に傷がない、ただ笑って、甘い言葉を囁くだけの女が。

 君の世界は、そういう軽さでできているよ。


 私は重い女。過去、現在、未来までにも傷がある。でも君は『一緒に背負っていく』と言ってくれたくせに。

 あれはただの嘘? それとも、君にとっては『見てる』だけで重さを背負ったことになるの?


 ……ねえ、答えてよ。

 私の重さがいらないならそう言って、私じゃ分からない。優しい言葉はやめて、君が私の重さを鬱陶しいと思うなら、ちゃんと隠すから。

 恋人に言う、背負う気もない『なんでも言って』は逃げ場を無くす卑怯な言葉だ。偽善者ぶりの素直で優しくて、友達以下の熱量しか私にくれないならいいよ。


 君がそういう付き合いを望んで、なんで私が君の重さを持たないといけないの?


 私が悪いの? 私の重さが、全部間違いなの? なんで私の人生を否定して、正論かも分からない言葉で私を追い込むの。


 君と時間をともにする度に、君の優しさが色褪せていく、今では君の言葉には、なんの温かさも感じない。


 愛している。その一言に、どれほどの毒が含まれているか、君は知らない。

 だから、君はその言葉を平気で口にする。

 私を縛りつけるために。私の未来を霞ませるように。


 どうせ私との未来は考えてないくせに。



 だからどうか最後まで、優しい顔をしていて。

 その顔で、私を壊してよ。


 愛していると囁きながら、私の息の根を止めて。



 そうしたなら、私はきっと、


 羽が生えたみたいに軽くなるから。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る