今日が崩れた
今日が崩れていく。
それは突然の衝撃ではなく、氷の
ベンチに座りながら、そんなことを考えていた。誰も隣に座ってはいない。けれど、その空白の存在感が、むしろ隣にいた誰かの不在を強調していた。肩は重く、無力感と共に身体の力が抜けていく。まるで地面に吸い寄せられるように、私はベンチに深く沈み込んだ。
木製の硬いはずの板が、私の重さでぐにゃりと歪んだように感じる。今日が崩れれば世界まで柔らかく、頼りなく、形を失ってしまう。私はその感覚に身を委ねるように背を預け、夜空を見上げた。
夜空の星々は、ぼやけて滲み、街灯の白い光と区別がつかなかった。輝きはすべて同じに見えて、どれもただ遠く、ただ冷たく、そしてただハッキリとした光を持っていた。
頬を撫でる夜風は涼しげで、確かに季節の気配を運んできているはずなのに、私の目の前を通り過ぎるたびに、私の視界から
遠くで聞こえる車の音も、人の笑い声も、まるでガラス越しの出来事のように遠い。私はベンチに溶け込み、夜の闇に溶け込み、いずれ風に攫われて消えてしまう。
今日が崩れていく。
そう思ったのは間違いじゃない。けれど本当は、崩れているのは「今日」ではなく「私自身」なのかもしれなかった。星と街灯の違いを見分けられないこの目も、彩りを奪う風に震えるこの心も、すべてが少しずつ形を失い、溶け落ちていく世界も。
世界はきっと変わらずに回り続けるだろう。けれど、私は崩れていく自分の世界をずっと眺めている。
ずっとずっと。
今だけはこの世界に浸らせて欲しい。
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