夏が暮れる
水溜まりにもみじが一枚、浮かんでいた。
カラカラと乾いた季節のはずなのに、そのもみじからはどういうわけか、みずみずしさを感じる。濡れた赤が、水に溶けているからか。
私はしゃがみ込み、その小さな世界を覗き込む。
大人になれば、今の全部が全部、上手くいくような全能感が手に入る。そう思っているのかもしれない。けれど、そんなものはきっと幻想。でも信じていないと私は歩けない。
今は全部が全部、答えが分からない人形だ。
ただ親の言うことを聞いて、ただ敷かれたレールの上を素直に歩いているだけ。もちろん反抗はする。自分の色を出したくなる。
小学生の時のような遊びの好きじゃなく、誰かを本気で好きになると、親とは初めての摩擦を生まれた。
けれど、その摩擦がより深く誰かを好きなるスパイスになった。
好きな人のことを考えると、胸が熱くなる。理由はきっとまだ持っていない。説明できない。ただ、顔を思い浮かべるだけで、不安な今日を、不安な明日を考えなくてもよかった。
もみじは水面に浮かんで、流されそうで流されない。私の気持ちもきっと同じだ。気持ちを伝えようとしても揺れてしまい、沈むこともなく、ただ留まり動けない。
この気持ちが流れれば、やがては乾いて、色褪せてしまう。そう思うと怖くなる。未来の私が、この気持ちにどのようなケリをつけるのか。大人になった私が、それでも好きな人を好きだと胸を張れるのかどうか。
風がひとつ、頬をなでた。水面が揺れて、もみじが小さく震える。
答えはまだ遠い。けれど、いま目に映る私の色はシッカリ持っている。みずみずしいもみじの波紋が、私の鼓動と重なっていく。
そうして揺れ動く気持ちごと、私は未来に運ばれていくのだ。
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