恋するたこ焼き🐙 メッチャ好きやねん! 青春はソースの薫り

ジュン・ガリアーノ

ソースの薫る青春フラグ

「メッチャ好きやねん!」


 教室にスパンっと響いた女の子の声で、昼休みの喧騒がピタリと止まった。


───えっ、今のはまさか?!


 ハッと振り向いたその先──教壇の横に立っていたのは神楽坂 舞衣。

 俺が密かに、ずーっと想いを寄せてる女の子だ。

 ちょい猫目のパッチリした目で、真っ直ぐこっちを見てる。

 スタイルもよくて性格も明るいし、マジで可愛すぎるんよ。


 ちなみに、振り向いたのは俺だけじゃない。


 三人で話してたオタクっぽい男子も、友達と動画撮ってたちょい派手女子二人組も、男女混合で話してたリア充たちも──とにかく全員だ。

 まあ、中には敢えて無視してるヤツもいるけど、なんやらチラ見はしてる。


───そらまあ⋯⋯見るわな!


 ん? てか、俺はどんなヤツかって?

 そりゃまあ、あれよ。なんての、その⋯健康で、勉強というか、授業は睡眠学習のプロで、ゲームをこよなく愛し、女の子から17年間⋯純潔を守り通してる男、ですわ。

 どうよっ! ⋯⋯はぁっ、ええやん別に。


 って、そんな”華麗”なプロフィールを持つ俺に、今大激震が走ってる。

 だって、舞衣が見つめてるのは──

 

「お、俺……?」


 思わず自分を指差すと、舞衣は急に頬を赤くしてコクンとうなずいた。


 ──まさかの告白!? 青春フラグか?!──


 みんなニヤニヤしたり、目を丸くしたり、口に両手を当てたりしてザワついてる。


 とか、悠長に解説してる場合じゃないっての。

 顔真っ赤で、心臓バクバク言ってうるせーのさ。

 耳栓しなきゃ⋯って、意味ねぇわ。ああもうっ!

 てな俺に、舞衣は髪をフワッと揺らしてツカツカ近寄り、真っ直ぐ見つめてきた。

 瞳はなんか光に揺れてる。


───マジで?! マジなんか?? こんな夢みたいなことが⋯⋯


 脳内はもう恋愛ドラマ最終回! 視聴率は⋯⋯知らん! とにかくヤベーってばよ!


 なのに次の瞬間、舞衣は、




「このたこ焼き、メッチャ好きやねん!」


 銀色のパックをバッグからドンッ、パカッ。

 アツアツのたこ焼きから、ほかほかと湯気が立ってる。

 教室は一瞬ポカン──からの大爆笑。

 さよなら、俺の青春フラグ。

 んな中、舞衣は俺に”たこ焼き”を串に刺して渡してきた。


「ほれ、食べてみ?」


 差し出されたのを一口パクン。

 外カリ中トロ。……メッチャうまい。けど⋯⋯


 壮大な肩透かしを喰らってふてってる俺の前で、舞衣はずっとニヤニヤしてる。


「アホか。な〜にを期待しとるん♪」


「は? うっさいわボケ」


 口を尖らせた俺に、舞衣はナフキンを渡してきた。


「はあっ。口、ソースで汚れとんで。使いや」


 受け取って口を拭ったその瞬間──裏に、ボールペンのにじむ文字が。



『アホやな、ほんま♡』



「……へっ?」


 顔を上げた俺に、小さくニッと笑う舞衣。


 笑い声にかき消されたと思った青春フラグは、ソースの薫りで立ち上がった。



 〜終わり〜 おおきに♪

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恋するたこ焼き🐙 メッチャ好きやねん! 青春はソースの薫り ジュン・ガリアーノ @jun1002351

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