人魚姫、と聞いて最初に思い浮かべたのは、嵐の海で王子様を助け、泡になって消える寓話でした。
優しく、美しく、ちょっぴり悲しいお話なのかな、と読みはじめた本作は、優しく、美しく、めちゃくちゃ悲しく、けれど深い愛が根底にある、素敵な物語でした。
本作の魅力はまず、明るく心優しい人魚姫セレイアが、高潔で堅物な翼人カイルラスの心の壁を突き崩していくところだと思います!!寡黙な武人が可愛らしい人魚に絆されていく様子はもー尊い以上の感想はありません!!
そして、カイルラスの主人であり友人ノアリス王と、姉さん大好き有能苦労人魚のメルヴィナ姫の取り合わせもまた尊い!!
この四人が、人間、翼人、人魚、三種族の和平を目指して言葉を交わすシーンが本当に温かで可愛くて、も、ずっとこれだけみていたい! ……と思いますがそうもいきません。
可愛らしい絵本のような物語は、段々と暗さを帯びていき、少しずつ、セレイアの失われた記憶が明らかになり、物語は佳境へ。
この情報の出し方が本当に絶妙で、不穏な空気を感じ取りながらも、祈るように読み進めてしまう魔力を感じました。
セレイアはただ可愛いだけのお姫様ではなくて、実は強い芯を持った気高い姫で、カイルラスは無骨さの中に熱い心を持った青年です。
ノアリスは軽薄なようで民のために心を砕く真摯な王で、メルヴィナは父王からの冷遇にもめげず、努力を続ける一生懸命な女の子。
登場人物がみんな魅力的で、人間臭くて、読んでいる最中、彼らの幸せを祈らずにはいられませんでした。
サブキャラの中だとパン屋さんになった人魚の店主と、長年仕えた老人魚がいい味を出していて、物語をきゅっと引き締めています。
ラストは是非、ご自身の目で確かめてください。
切なくて、温かくて、優しい気持ちで目頭が熱くなること、請け合いです。