第2話阿鼻叫喚①
涙が引っ込み、冷静になると少し恥ずかしくなってきた。
これまでもホシカゲを抱きしめたことはあった。だが、それは今までホシカゲが何も考えることができないと考えていた時であり、今、思考することができ、さらにさっきまで話していた相手に抱きついたと考えると……
ボッと顔に火がついたように顔が赤くなってきた。
それに気づいたのかホシカゲは少し馬鹿にするような口調で言った。
「クマのぬいぐるみに抱きついただけで、顔が赤くなるとはね
これはもうむこう何百年は恋愛も何もできないな」
私が「んー!!」と威嚇すると、ホシカゲは少し反省したように(偽装した)声にし
「すまんすまん、久しぶりに声を出したからな、少し僕も興奮しているのかもな」と言った。
「ん?久しぶりってことは前は、普通に喋ってたの?お母さんとかと喋ってたの?」
もしも話したことがあるなら、なにか母について知れるかもしれない!!
そうワクワクしながら聞くと
「いや、僕ができたのは君が生まれた頃と同時期さ、喋ってたのはまだ私に人間の体があったころだな、うーん、文化の進み具合を考えると200年?くらい前かな」
予想の範囲内だったがやはり少ししょんぼりした。
そして、その後ホシカゲがとんでもない事に気づいた。
「え!?人間の頃の記憶があるの?」
私は少し声を大きくし答えた。
それはあり得ないことだった。
なぜなら、記憶というのは魂というより体に定着し、死んだ際は当然体はなくなるので、記憶も消えるからだ。それは世のことわりのはずだ。
「うーん、いやまぁ魂時代の記憶はないけどね?
僕が人間だった頃の記憶は断片的には覚えてたんだよ、
多分自分が強く印象に残った場面は残ってると思うよ
理由は正直よくわからんな」
そう笑いながら言った。
ここで私は頃合いだと思って今までで一番疑問に思っていたことを問いた
「ねぇホシカゲ、なんで今まで何もできないふりをしてたの?」
そう答えると、ホシカゲはポンと手を打って、まだ言ってなかったっけと言いながら答え始めた。
「さっきの話にも少し繋がるけど、僕の前世が原因だよ。前世でちょっといろいろやらかしちゃって、全てのことが面倒くさくなっちゃったからかな、まぁそんな深い意味はないよ」
そう抽象的に答え、さらに続けて
「まぁ、今はやる気も戻って、絶好調ホシカゲになったから、いろいろ頑張るからね!!」
そうおどけてみせた。
その様子は何かを必死に隠すようなそんな仕草にも見えた。
話に一段落ついたところで「あっそーだ」と言いながら、ホシカゲは立ち上がってニコニコした表情で私に向かい合って聞いてきた。
「なぁ、エールこれから何をしたい?」
少し何を言ってるか一瞬理解できなかったが、今思い出した。
そうか私は捨てられたのだ。いろんなことがありすぎて、ほぼ忘れていた…
これから自分で私自身ほことを決めなくてはならない。
それは自由であると同時に少し怖さも孕むものだと思った。
私はこれまでいつも誰かに命令されて、生きてきた、だから自分で決めるということが初めてであり、なにか底知れない怖さがあった。
だから私にとってはこの質問は私を悩ませた。
少し考えていると妙案を思いついた。
そうだ!私は別に自分が決めなくてもいいのだと。
つまりホシカゲの考えにタダ乗りするのだ。
「じゃあ、逆にホシカゲがやりたいこととか行きたい場所はない?」と聞くと、
「僕の行きたいところは、エールの行きたいことだし、僕のしたいことはエールのしたいことだよ!」
ニコニコと悪びれる様子もなく答えた。
そこで私はこう思った。あっ、こいつも決めたくないんだ!と
くっ…これじゃ、もう何もない、で逃げれないじゃないか… ホシカゲなんと強い一手を…
そうして少し長い時間迷って(?)いると、今度は逆にホシカゲが困ったように私に口添えしてきた。
「いや、テキトーでもいいんだよ?、例えば大都市に行きたーいとか美味しいご飯巡りしたーいとかね」
やりたいこと…か
別に私は大都市に対して憧れはないし、今まで食べてきたご飯でも十分美味しいし、栄養満点だ。食についてもこだわりはない。
そして私はなんとか記憶を掘り返しているとある一つの単語を思いついた。
「天蓋」
それは私の母と誰かが話していた際に言っていた言葉だ。
まだ物心つくかつかないかの時期だったので文脈はわからないが、なぜかその言葉は私の心に深く刻み込まれていた。
多分場所であろう、何があるかは全く想像はつかない、しかし少しでも私を産んだ母の痕跡を探してみたい。そう思った。
「じゃあ、私は天蓋?ってとこに行ってみたいかな…」
それをホシカゲはびっくりするほど早く、二つ返事で頷いて、
「じゃあそこにいこーか!
天蓋か、詳しくはわからないけど、良さそうだね!!
エールが言うならきっといい場所だろうね!!楽しみ!」
そして、綺麗な風景かな、それとも建物かなぁと言いながらクルクル回転してる。
ホシカゲ、張り切りすぎじゃない?
器用にちょうど私と向き合った時に回転をやめると
「そういえば天蓋はどこにあるかわかる?」
そう質問してきた。
それに私は首を横に振ると、ホシカゲは
「それなら、大都セプカーナで情報を聞き回ろうか、大都であるならば何かはわかるはずだし!」
そう提案してきた
大都セプカーナそれは、ラグナー王国の首都であった。
近隣の国でも類を見ないほど発達した、人口800万を超える都市だ。
その街並みなども有名だが
特に有名なのは、その巨大な都市を覆うように張られている結界だ。
ある大魔法師が命をかけて作ったその結界は、大都セプカーナひいては、ラグナー王国の発言力にも影響を与えている。ここまでラグナー王国が覇権をとった一つの要因とも言われている。
そんな大都市であれば、確かに情報が得られるかもしれない。
「そうだね!それじゃそこに行こうか、馬の用意しないと」
私たちは馬を用意するため、近隣の村へと向かった。
馬の用意は思ったより簡単にできた。
ホシカゲが少しお金を持っていたので、そのお金を支払い、馬を買い取ったからだ。
なんてホシカゲは有能なんだ!?
私たちは馬に跨り大都セプカーナを目指した。
道中はほとんど何もなく、思った以上に順調に進んだ。
そして、サドラー家の領地をもう少しで、抜けようかというところで、兵の人たちが検問のようなものをやっていた。
さっきの件が関わっているかもしれない。
そう思い、引き返そうとしたがもう遅かった。
兵士の1人が叫んだ。
「おい! 銀髪の女がいだぞ!!! 捕まえろ!」
そして笛を吹いた。
「エール、逃げるよ!!」
すぐに状況を理解したホシカゲが指示を出した。
「わかった!」
検問所に向いていた、馬の向きを変え私たちは右の山道へと馬を駆けさせた。
「エール、僕が近づかせないから、君は運転に集中してて」
兵士たちも、すぐに馬に乗りこちらを追いかけてきた。日頃から馬に乗ってるものと乗ってないものでは、技術の差は確かで少しずつ近づいてくるが、
「くっ、気をつけろ、魔力の障壁だ!ぶつかると、転倒するぞ!」
ホシカゲが魔力の障壁を貼ることにより、兵士たちは、ある一定以上の距離からは近づけない。
どうやら魔法師はいないらしい。魔力の障壁を兵士たちは壊せていなかった。
そうしてこのまま、無理やりにでも他国に行ければと思っていたが、山の中腹、少し広場のようになっているところに着いたとき。
ちょうど、前方から先程、笛で呼ばれたであろう兵士たちが出てきた。その中には魔法師を思わせるような普通の兵士とは異なる服を着ているものもいた。そしてその中でも特に上等と思われるような服を着たメガネをかけた男が口を開く。
「やぁこんにちは。名前はエールだったかな。
私はサドラー男爵に仕えるフートというものだ。以後お見知り置きを。」
そう気さくそうに話して言うことには
「さて、今日私がそこにきたのは、そこのサファを引き取りに来たのさ。
もちろんタダでとは言わないよ。
私は山賊ではないからね。
君にももちろん、メリットはあるよ。
まずは君のほしいものをなんでもあげよう。宝石でもなんでも、サドラー家に無いものでもなんとか手に入れ、君にあげよう。
そしてさらに、サドラー家で雇ってあげよう。
高待遇を約束するよ。家に捨てられた君にとってはまたとない話だ。
それにあのサファを見ろ。
残虐非道だと思わないかい?簡単に人の指を破壊する様どう思った?
あのサファはきっと人を殺したことがあるよ。いつか君もそいつに殺されると思うよ。
なぜなら、なんのスキルもない君を主として認めないだろうからよ。
だから君の支配が届く間に私に渡しなさい。
私ならそのサファを安全に利用してみせよう。
それに、周りを見たまえ、この兵力を、
この兵力相手にはさすがに君のサファも勝てないのではないかね?
もし負けたら、君はこれまで以上に酷い目にあうだろうよ。それこそ死んだ方がマシと思うほどにね。
選びたまえ、サファを渡さず勝てるかどうか不確定な戦いを興じ、最悪な人生を歩むか。
サファを渡し、欲しいものを手に入れ、復讐を果たし、幸せな人生を選ぶか。
あぁ、ちなみに私は気が長い方ではないからねぇ、早めに選ぶことをおふすめするよ。」
と言ってきた。なにか言おうとする、ホシカゲを手で制して、静かに口を開いた。
「フートさんの言いたいことはわかりました。…つまりはあなたたちは余裕がないのですね。子供相手とは言えこんな馬鹿みたいな提案をするとは」
フートは一瞬面食らったような顔をしたが、すぐ顔をもとの人の良さそうな顔に戻した。
「ほぉ、どこら辺でそう思われたのですか?」
「全てです。
まずこの交渉を仕掛けたところがおかしいのです。まず仮にあなた方が圧倒的強者であるとするなら、交渉は仕掛けません。
なぜなら全部奪うことができるからです。その時点で100パーセント勝てると思ってないのでしょう。少なくとも大きな被害は食らう。そう思っている。
多分警戒している相手はホシカゲでしょう。
先程の戦いは仲間の方から聞いているでしょうから。
そして、仮に私がホシカゲを大人しく渡したとて、あなたたちは交渉を絶対に履行しようとはしないでしょう」
そう冷ややかに言ってのけた。
「そんなことはないよ!私は嘘をつかない」
「いえ、先程の話を聞いておられましたか?圧倒的強者は交渉などしない、とホシカゲを渡した時点であなたたちは圧倒的強者になります。
だから交渉を履行せず、私を殺すなり、奴隷に落とすなりするでしょう。
それを証明するように、あのメリットの内容です。あまりにもお粗末です。なんでも欲しいものをあげるなど、そんな抽象的な単語を使う時点で履行する気がないのが見え見えです。
それにホシカゲについてもです。
あなたの言ったことは、そもそもほぼ妄想にすぎません。
それにホシカゲは私を助けるためにあのようなことをしたので、責任は私にもあります。
私は一度もホシカゲを支配などしたことはありません。なぜなら私とホシカゲは親友だからです。だからその心配もありません。」
そして息を一度飲んで、はっきりとした口調で言い放った。
「最後に、仮にどんな私が幸せになれる契約がきても私はホシカゲを渡すことが条件であるならば、断るでしょう。
なぜなら、私の幸せはホシカゲがいないと絶対に成り立たないからです。
だから謹んでお断りいたします」
そう笑顔で言い終わると同時に、私は身をかがめた。
「エール、ナイス時間稼ぎ」
ホシカゲはそう言って、魔法を発現させた。
ホシカゲが発現した魔法は魔力の塊をそこら中に花吹雪のように撒き散らす魔法だ。
雹のような白色の魔力の塊は触れると、触れたところはえぐれる。
魔力の塊を打ち消すには魔力をぶつけるしかない。 だからこの時点で、魔法師以外の敵は無力化したと言っていいだろう。
しかし動きは遅く、魔力持ちでなくても、頑張れば避けれるレベルだ。
多分前に、ホシカゲに殺さないように言っていたのを覚えていたらしい。殺傷力の低い技にしてくれたようだ。
「お前ら、あらかじめ作戦を立ててたのか」
フートは感情の消した、そんな顔と声で問うてきた。
「いいや、ただエールの言いたいことはわかるただそれだけさ」
「はい。ホシカゲと私の仲ですから。
ただ私が先ほど言った言葉もまた私が思っていたことです。」
そうすると、フートはふんと鼻を鳴らし
「ちっ、やはり力づくでやるしかないか。それでも不意打ちでなんの魔法を使うかと思えば、兵の雑魚の処理の魔法とは、なんと愚かな。」
そう嘲笑してみせた。
「こちらにはまだ魔法師がまだまだ残ってるぞ」
そうして余裕綽々の表情で長袖をあげ、ボタンを外した。
「さあ、戦おうか」
それがスタートの合図となり、戦いが始まった。
私の眼前では目にも止まらぬ早さで、高速で火の玉や水、電気などが飛翔し、ホシカゲを襲おうとする。
それをホシカゲはそれらを手をかざし、撃ち落とす。
魔法を知らない私にとっては全く何が起きてるか分からない光景だった。
しかし前回のように腕を爆発させたりなどは見られていない。
「ふん、お前の手の内は知れているぞ、兵の腕を爆発させたのは、魔力の過剰注入による、暴発だろう。
かなりの魔力を持っているようだな」そう魔法を使いながらフートは言った。
「御名答ー、魔力の過剰注入は釣り合いの取れた天秤の片方に重りを追加するようなものだからね〜。
当然、天秤は傾くし。魔法も同じようにコントロールを失っちゃうからね。魔法は暴発しちゃって、それで怪我しちゃうってわけ。
まぁ君たちはしっかり対策してきたみたいだね」
「同じ手を食らう我らではないぞ。
対策も簡単だったさ、魔力を吸収しないようにすればいいのさ、魔力吸収を封じる壁を魔力が入る機関に作ったのだ。
確かに魔力吸収が一時的にできないのは、痛いが、お前も先ほどの大魔法や障壁で使った魔力、それに魔法を消すのにはその魔法を作る、その倍以上の魔力が必要らしいな。
それに見た限りお前にはカウンターはあるが直接的な攻撃魔法は少ないらしいな。
私たちの魔力がなくなるのと、お前の魔力がなくなる、どちらが先だろうな」
やばい。そう思った。フートは交渉に関しては下手だが、戦闘の分析に関しては得意らしい。このままではいくら大きな魔力を持っているホシカゲとは言え、ジリ貧だ。
大丈夫か?そう思ったが、ホシカゲの表情を見るとその不安はすぐに吹き飛んだ。ホシカゲは先ほどから、全く表情を変えていない。
ずっと笑顔のままなのだ。それは心からの、嘘偽りのない表情だと私は理解できた。
「ふふん。うーん。どっちだろうね?賭け事でもするかい?」
そう軽口を叩きながらも、10人を超える魔法師の魔法を魔力を重ね、防ぎ続けている。
そうして、少し時間が経った頃にある変化が起きた。
フート側の魔法師が、頭を抑えながら、倒れ始めたのだ。
最初は魔力切れを起こした、そう思ったが、様子が違う。
フートを含む兵士たち全員がほぼ同じタイミングで倒れ始めたのだ
「おい、何を…した……」
そう問うフートに、まるでイタズラを成功させた子供のように笑いながらホシカゲは答え始めた。
─────────────────────
あと書き
お少しぶりです!!桃田 昇吾です!!
ここまで読んでくれた方大好きです!
ほんとは10000字を超えていたのですが、作者の自分でさえ、読んでて疲れてしまうので流石に半分に分けました。
なので下地や土台の部分も多く、退屈と思う方もいたと思いますが、次のエピソードではなかなか爽快な展開になりますのでお楽しみに!!
ホシカゲの策略はいかに??
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