冒険はぬいぐるみを愛でながら

桃田昇吾

第1話 人生の転機??

「こんなこともできないの!?」

眉を吊り上げ、かわいらしい顔を歪めながら、怒鳴りつける人は私の義姉だ。


そしてそれに身向けもせず読書をしているのが私の義母だ。


私は浮気相手の子供だと伝えられた。母はとうに死んだらしい。

正妻やその子供から見た私はとても忌々しく、そして下賤らしい。


物心ついた時から私はその二人の奴隷であり

なにをやっても、なにを言っても、怒鳴られ

時には暴力も振るわれた。

父は一応中立ではあるが私になにもしてこない代わり、助けてもくれなかった。


だから

「申し訳ございません。すぐ取り替えますので」

そう申し訳無さそうに言って戻る。


それを二人は侮蔑、優越、様々な負の感情を含んだ目線で見送る。

それが私の日常だ。






 そんな私にも楽しみはあった。

それは私の唯一の友達であり、親友でもあった、ぬいぐるみの「ホシカゲ」とともに過ごす時間だ。

それは母が遺してくれたただ一つの形見だった。


ホシカゲは30c mほどあるクマのぬいぐるみである。

目や鼻の先にビーズが付けられており目のビーズは青色鼻のビーズは黒色で 口はいつも弧を描いている。

服は綿織物のような白色のトップスを着ており、毛並みは少しざらざらしている可愛いやつだ。



ホシカゲは動くことができる。

これは私の住むラグナー王国の「降魂術ジールフェス」と呼ばれる技術だ。


それはぬいぐるみを作る技術で、名巧の作ったぬいぐるみには魂がほんとの肉体だと勘違いして入るそう。(学校には行けていないので、詳しい仕組みはわからないが)


そしてそれらは「魂の居残り《サファ》」と呼ばれ、日常や戦闘、多岐の場面で使えるので私の国の自慢だそうだ。そしてとても高価だという。


だがホシカゲはどうやら失敗作らしい、

普通の魂の居残り《サファ》であれば、動くだけでなく言葉をしゃべることや、少し戦うこともできるが、できない。

(前に義姉に蹴られた際も反撃もせず、何も反応を示さなかった)


義母たちはホシカゲ(の価値)に気になり、調べに出したことがあったそうだが、鑑定士の人からこれには、考える力も戦闘力もなにもない失敗作で価値もなにもないと聞くと、


「あいつには失敗作がお似合いだ」といい、なんとか売られずに済んだ過去がある。


しかし私はホシカゲと一緒にいられれば良かったので、別にそれらは問題にならなかった。






私は今日もホシカゲと一緒におままごとをしようとした。


「ホシカゲ、一緒におままごとしよ?」

そう言うと、今まですわっていたホシカゲはスッと立ち、私が座っている場所の隣まで歩いてきて、私と同じ向きでまたコテっと座った。

考える力もないとはいえ、こういうお願いはわかるらしい。

パン屋、料理人、お医者さん

様々な職業の人に私はなりきり、ホシカゲはそれのお客さん役をする。喋れないので私がホシカゲの分も喋ることになるが、なんとなくホシカゲが言いたいことはわかる気がするし、

私にとってホシカゲはとても表情豊かで面白い子なのだ。

この子がいるから頑張れるそんな気がする。






ある日、私に対して唯一中立を保っていた。義父が死んでしまった。


粛々と葬式を執り行い、少し経ったあとに義父にかわって当主となってる義母に呼ばれた。


入った大広間は空気が重苦しい雰囲気であった。

同僚と言っても過言ではない使用人たちは伏目がちであり、また誰かが死んでしまったそんな空気感があった。


しかしそんな中でもあの二人だけはいつも通りの凛とした、しかしバラのような棘のあるそんなオーラを醸し出していた。


義母は静かに口を開く

「エール、ご足労いただきどうも、早速ですが、要件を伝えますわ

サドラー家へ向かいなさい。」

あまりの衝撃に声のない悲鳴をあげる。

どこかで息を飲む音が聞こえる、心臓の音が焦る気持ちを増幅させる。


サドラー家、そこは誰とも関わりのない私ですら知っている。

曰く、人のことを人だと思わない集団の集まり、拷問を趣味とし生き血をすする夫人、強姦しその上殺害することでしか快楽を感じることがない夫、奴隷同士を殺させ、負けた方を生きたまま燃やし、それを肴に酒を嗜む息子。


嫁入りなどという表現を使わないということは、私はそのような扱いを受けることは確実だろう。


「あー良かったですわね、エール、今度はしっかり愛情持って接してもらえそうですわね」

そう心から祝福するような声で皮肉を言う義姉。


私は震える声で言った。

「わ、私、まだ、年もまだ10になったばかりですし、まだ、、教育も受けたことはないですし、あの、知らず知らず、サドラー様に不敬を行ってしまいますから‥あの、だから」


そこまで話したところで私の言葉を遮るように義母は表情を変えず言い聞かせるように優しい声で言った。

「そのことなら心配しなくていいわ。サドラー男爵はね、あなたのその綺麗なその髪にお惹かれになって、連れてくるようご命令なさったもの」

エールの容姿には一つ目立つ特徴がある。

それは銀髪だ。絹のようにサラサラとしたまるで輝いているようなそんな髪だ。


エールは言い返そうと思ったが、言葉が詰まる間に義母はさらに言う

「さ、サドラー男爵のところに向かうんだもの、こうしちゃいられないわ、うんとおめかししなくちゃ!

セットは使用人に命じているから安心していいわ」

そう締めくくり私は有無を言わせずに、退出させられた。

そこから先、私はなされるままにさせられた。


何度か脱出のチャンスがないか伺うが、何をするにも見張りがついて周り、それがさらに私を精神的に追い詰め、脱出を諦めさせた。

あぁ私の人生はもう終わりなのでしょうか。







ついに当日となった。

前日は一睡もできなかった。当然だ、これから死にに行くのだから。

クマは化粧により消され、見たことしかなかった、上等なドレスを着せられ、確かに自分とは思えないほど、美しくなったが心情は最悪のままだった。


今、我が家の前には一台の馬車が止まっている。それが私を地獄へと誘う馬車だ。

一目見ただけで高級品とわかる、とても意匠の凝ったデザインの馬車も今では何も惹かれない。


それよりも目につくのはそれに乗っている人たちだ。その人たちだけを見れば、盗賊や山賊と勘違いするほど、目つきが悪く体は傷だらけ、態度もとても貴族の遣いのものにはまったく見えない、いい加減で敬意の全く感じられないものだった。


それだけで私はこれからの自分を想像するだけで、涙が出そうになるが、涙を流せば逆にそれは相手を喜ばすことだとわかっているので、涙を堪え、私は今両手で持っているものをギュッと抱きしめた。


そう、私の両手にいるのは、ホシカゲだ。

本来であるならば、戦闘でも使える、魂の居残り《サファ》を持ち込むなどあり得ないのだが、ホシカゲが失敗作であることに加え、私へのご機嫌取り?の意味もあるのだろう、なんとか持ち込みを許された。


後ろを振り返るが誰もいなかった。誰もこんな連中とは顔も合わせたくないんだろう、いやそれとも単純に私の見送りが面倒くさいのだろうか、、


どっちにしろ私は完全に捨てられたらしい


そうして私は生まれ、そして育った地を旅立った。








馬車は向かい合う形で3人、3人と座るタイプ馬車だった。その中、私は真ん中に座らされ5人に囲まれる形で座った。


私の隣にいる一人の男は下卑た声で私の髪をベタベタ触りながら言った。


「あーこれはまた、上玉が手に入ったなぁ、年はまだ若いが、この整った容姿に、この銀髪だ、さぞ男爵様はお喜びになるな」


これに対しもう片方にいる男は太ももを触りながらこう答えた。

「いや、男爵様は年が若いのは好まないだろうよ、あの人は胸が大きい方が好きだからなぁ、となると女だし男爵のご子息はないとすると、拷問好きの男爵夫人になるだろうよ、

嬢ちゃん喜べ、あと2年は死なねぇぞ、まぁ殺してくれって言われても死なせてもらえねぇだろうがな」

そういうと、男たちは手を叩きながら笑った。

狂ってる。そう感じた。

そして一人の男が思いついたようにそして興奮気味に言った。

「おい、男爵夫人ということは、ちょっくらここで味見してもバレねぇんじゃねぇか!?」

それに男たちは賛同し、まるで獲物を見るような目で私を見た。

「逃げないと」そう思った。

この時、馬車の車輪が大きな石でも当たったのか大きく跳ねた。


「ここしかない」

そう決めてから行動は早かった。

ホシカゲを両手にやったまま思いっきり、ドアに向かってぶつかった。

さっきの跳ねた影響もあってか鍵は外れていたのか、ぶつかった衝撃により簡単に鍵は外れた。

私は、一目散に走り出した。

男たちは未だニヤニヤしてままだった。






馬車の周りは森だった。

まだ日中なのにひんやりとしており、薄暗く鬱蒼としていた。

私は木の幹や土に足を取られそうになるがそれでも走る。とにかく走る。走るしかない。


ある程度走り肩で息をするくらいまで走っていると、突如足に縄のようなものが絡まってきた。私は前のめりに倒れてしまう。

これは魔法だ。そう思った。

あの男たちは魔法師だったのか。

まずい。そう思った。縄は硬くキツく結ばれており、外れない、手が震える、外れない。

そうしているとあの男は先ほどの笑みをさらに深め、下品な笑みを浮かべながら歩いてきた。


「あー、お転婆なお嬢様だこと、自分からこんな薄暗い森に来るなんてなぁ。これじゃ悪い人になにをされても文句は言えねぇよなぁ」

男たちは私の反応を楽しむようにジリジリと歩み寄ってくる


私はなんとか手を使い、後ろに這うように移動するが、すぐ後ろに大きな木が生えておりもう下がることはできない。


もう限界だ。今まで堪えていた涙が一粒出てきた。だめだ、そう思っても、一度決壊すればもう止まらない。涙がポロポロ出てくる。

そして、うわ言のようにつぶやく。


「た、たす…けて…」

助けなどくるはずはないわかってる。それでも声にすることを止められない。


もう男たちの手はほんの1メートル近く、もう触れられるそう思った。私は目をギュッと瞑る。



…………しかしいつまで経っても、男たちに触られることはなかった。

なんと私を庇うように、男たちの前にホシカゲが、立っていたのだ。

「ホ、ホシカゲ、助けて…くれるの?」

私は震える声で言った。そこで驚くべきことが起こった


「あぁ、エール、親友がピンチの時は助けるに決まってるだろ」

ホシカゲが自信を持ったように言ってのけた。

ホシカゲの声は私が想像した通りの、

少し甲高く、少年のような声だった。


なんでホシカゲが喋れるんだ?、ホシカゲは

失敗作ではないのか? など私が混乱していると、ようやく状況を理解できた。男が少し面倒くさそうに口を開いた。

「おいおい、情報と違うじゃねぇか、あの女の持つ魂の居残り《サファ》はなにもできねぇ、出来損ないじゃないのかよ。

まぁいいや、おい、早くそこをどきな、

ぬいぐるみさんよぉ」

一人の男がホシカゲに殴りかかる。

「ひぇ」声をあげそうになる。

そのパンチはホシカゲや私など、簡単に吹っ飛ばせるようなパンチに見えた。


それをホシカゲは、、、

微動だにせず手で受け止めて見せた。

「少し力に頼りすぎだ。パンチには力だけではなく、技術も必要だよ」

ホシカゲはまるで子供に教えるような口調で言った。

ここで男たちはやっと異常に気づいたようで、ホシカゲを囲むように距離を取り、ホシカゲを睨みながら、腹立たしそうに言った。


「チッ、早くしねぇと、あの女を味見する時間もねぇじゃねぇか」

「おい、合わせるぞ」

そうすると、男たちは何か呪文を唱え始め、手には炎や、水などが顕在し始めた。

魔法だ。魔法の場合防ぎようがない

「ホシカゲ、逃げよ!魔法は防げないよ」

そう言ったが、ホシカゲはコロコロと楽しそうに言った。

「大丈夫。防ぐ必要なんてないから」

ここで、ホシカゲが男たちに手を向ける

「「あああぁぁぁ」」

突如、6人の腕が爆発したように粉々になった。よく見れば残ってる腕の先には火や水などが掻っ切ったような跡がある。


そして、ホシカゲはもう一度手を向けようとした。次は殺す気だろう。


まずい、エールはそう思った。確かにあの人たちは悪人だが、殺す必要なんてない。それにホシカゲに殺人などしてほしくない。

そして私は、なるべく落ち着いた声で言った。

「ホシカゲ、もういいから、、ここまでにして。

 あの、あなたたちもここでお帰りください」


ホシカゲは軽い調子で言った

「エールが言うのならそれでもいいよ

さぁ早く、ここから失せな?

今はエールの顔に免じて、ここまでにするけど、」

そこで一段声を低くし脅すように言った。

「もしも、もう一度エールに危害を加えようとしたら、絶対に容赦しないぞ」


それは先ほど、私に対して話す様子とは、全く違う底冷えするような少し怖さを感じるような、声だった。


男たちは私たちを射抜くような、そんな目を向けながら足早にここを去っていった。






男たちが去ってから、少し経ち、やっと私は息を吸えた気がした。ほんとホシカゲには驚くことばかりだ。

ほんとはいろいろ聞きたいことはあるがまずはこれを言わなくては…

「ホシカゲ」

そう呼んだ、するとホシカゲは「いっちにーいっちにー」と掛け声をあげながらしていたストレッチの体勢を崩し、呼びかけに応じた。私はできる限り、優しくそして感謝を込めてこう言った

「ありがとう」

ホシカゲのおかげで私はまだ生きることができるのだ。ホシカゲには一生分の返せないほどの恩をもらった。


すると、ホシカゲはクスッと笑うような仕草をしながら、優しく言った。

「いえいえ、エール僕も君に感謝したい

ありがとう、君の優しさが僕を救ってくれたんだ」


その言葉の意味はわからなかった、だがなぜか笑いが込み上げてきたので笑っていると、涙も一緒に込み上げてきた。

しかし今度は我慢する必要はないんだ。

その考えが私をよりいっそう安心させた。


私が泣き笑いをしていると、ホシカゲは驚き、しかし笑いながら私に抱きついてきた。


さらに涙が出てきたが、今の涙は先ほどの涙とは全く違ったとても心の晴れるものだった。







サドラー家 本邸


そこで報告を聞いた、サドラー男爵は興味を惹かれていた。


初め、銀髪の女を取り逃がしたと聞いた時はとても腹を立てたが、その後の情報は彼を驚かせるには十分だった。


(あの女の見張り役は確かに強い魔法師ではない、だがそれでも5人もの魔法師を手をかざしただけで両腕を爆発させる魂の居残り《サファ》がいるとは。)


少し思案し、サドラー男爵は臣下を呼び出した


「おい、今出せる兵力を全て持って、あの女の持つサファを連れてこい、もう女の方はどうでもいい。

あいつがあれば俺はさらに高みを目指せる。」

サドラーは悪い笑みを浮かべながら命令した

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あとがき

初めまして桃田ももた 昇吾しょうごです。


ここまで呼んでくれた方大好きです!

誤字とかこうした方いいとかあったら是非是非書いていってください!


不定期ですが早めに次の回書けるよう頑張ります!!

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