第6話

皇子との婚約を回避するため、私はまず――確実に彼に嫌われる方向へ動き出した。方法は簡単だ。女らしからぬ振る舞いを徹底して見せつければよい。そうすれば家の評判は落ち、婚約話は自然と消えてなくなる。そう考えた私は、家族を説得するためにあらゆる手を尽くした。兄たちのときよりはやく、齢七にして初陣を許される運びになったのは、その説得の成果である。初陣は小規模な盗賊団の殲滅任務。騎士三十と私――盗賊相手にしては過剰とも言える大勢で向かう編成だが、これにも理由があった。我が家の最高権力者《おかあさま》はなかなか首を縦に振らず、私は若輩ではあるが家のために何かを成し遂げなければ家に居続ける資格はないと啖呵を切り、出奔するぞと交渉|≪おどし≫してようやく多くの騎士を付けられるかわりに許してもらったのだ。


ここまで手間をかけたのは無駄にできない。おそらくこれが最後の機会だろうと腹を決め、皇子との婚約が自然消滅するほどの大暴れをこの舞台でやってやろうと心に決めた。余談ながら、この遠征は私の戦闘訓練|≪ひまつぶし≫も兼ねている。人の道から外れた言い草かもしれないが、生物相手に全力を出すのは、女神に一発入れて以来七年ぶりのことだ。それに、異世界の魔力と転生前の実家で学んだ武術が融合して生まれた、誰も見たことのない新たな流派――町民や騎士団が俗に「鬼子流」と呼ぶ我流を試す絶好の機会でもある。人を殺める行為だと分かっていながらも、私の胸は言いようのない昂ぶりで満たされていた。元の世界であれば禁じられていた技巧を、ここでは制限なく振るえるのだ。武辺の家に生まれてそんな状況で興奮しない者がいるだろうか。いるかもしれないが、少数だと私は思う。


出立の日、薄曇りの空の下で甲冑が光を奏で、騎士たちの息遣いと馬の蹄の音が混ざり合った。私の手はいつものように震えることはなかった。むしろ、刃や魔力の感触を確かめる指先に集中している。顔に浮かべるのは敢えての無愛想、目つきを鋭く、所作を荒くしてみせる。村人の前では冷たく評判を落とすために意図的に粗暴に振る舞い、必要以上に高圧的に命じ、粗暴で粗野な鬼子のふりを。だが、心の奥底では一つだけ誓っている──この薄皮一枚の自制の下で、私は全てを計算し、必要なときにだけ確実に斬り捨てると。婚約を蹴るためのふりであれ、本当に私が戦う時は、無駄はしない。初陣の夜明けが近づくにつれ、期待と計算が混ざった微睡が私の内側で静かに膨らんでいった。



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