第5話

そんなこんなで趣味として行っている武術と魔術の探求により七歳にして「エインズワースの鬼姫」などという物騒な二つ名を頂戴した私は、日々、武術訓練や魔術修練に勤しむ日々を送っていた。

……いや、正確には、訓練そのものよりも「兄姉たちの稽古を横目で盗み見して、自分なりにアレンジした妙な型を試す」のに夢中だったのである。


その結果、父からは「天才か、あるいは化け物か」と評され、兄姉からは「ちょっと危ない妹」と呆れられる始末。気づけば「鬼子」などという有り難くない呼び名が定着していた。


だが、そんな私を震撼させたのは、風の噂で耳にした――いや、正確には使用人たちの井戸端会議から盗み聞きした――この言葉である。

「聞いた? 鬼子様と、皇子殿下の婚約が決まったそうよ」

……やっぱり来たか、この展開。

ラブコメ悪役令嬢転生モノにおいて、王子との婚約はすなわち断罪イベントの布石。

前世の三十年社畜経験と、オタク的ストーリー知識を総動員するまでもなく、この婚約が私の未来に滅びを運んでくるのは火を見るより明らかだった。

「ベタだなぁ……いや、ベタすぎるだろ」

思わず心の中で突っ込む。

とはいえ、嘆いていても仕方ない。私には母譲りの知略と、前世で培った処世術(ブラック企業サバイブ能力)がある。


つまり――「婚約破棄」に持ち込むチャンスはまだ残されている、ということだ。

あのときは泣き叫んで地団駄を踏む程度だったが、今回は違う。七歳の私には戦闘技術(?)と政治的駆け引きの知恵が備わっている。


「よし……ここからは私のターンだ。婚約破棄ルート、全力で目指してやる!」


かくして私は、鬼子と呼ばれるだけでなく、裏でこそこそと「婚約破棄のための暗躍」を始めることになったのである。


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