第3話 不思議な健康診断

 翌日、土曜日の朝。勇太は寝不足でボーッとしたまま、学校から指定された病院へ向かった。昨晩は、エマと遊びに行けることが嬉しすぎて、なかなか寝付けなかった。


 指定された病院は、自衛隊の病院ということだったが、見た目は普通の大病院と変わらない。


 受付を済ませた勇太は、更衣室に案内され、検査服に着替えると、鞄や服をロッカーに預け、身体測定や苦手な採血をした。


 採血の後は、白い大きなドーナツ型の機械の穴の中でしばらく仰向けでじっとさせられたり、積み木で作業をさせられたり……よく分からない検査を色々受けさせられた。


 一通りの検査が終了すると、勇太は再び更衣室に案内された。服を着替えて鞄をロッカーから出し、鞄からスマホを取り出す。


 何故か鞄の中のスマホの位置が少し変わっていた。鞄をロッカーから出したときに、何かの拍子で動いたのだろうか。


 勇太は、スマホでエマから何か連絡が来ていないかチェックした。特にメッセージは届いていなかった。最近、気になってすぐに確認してしまう。


 その後、勇太は病院の会議室に案内された。


 会議室には弁当が一つだけ用意されていた。勇太は席について弁当をいただいた。


 会議室には、勇太のほか、スーツ姿の女性が一人いるだけだ。他の学生は別室で検査を受けているのだろうか。


 スーツ姿の女性は、20代から30代くらい。セミロングの髪型で理知的な顔立ちだ。無言で会議室入り口近くの椅子に座って待機している。


 昼食後は、同じ会議室で心理テストのようなものを受けさせられた。その量がハンパない。勇太は眠気をこらえつつ、上から順に答えを記入する。回答を進めていくと、変な質問が出てきた。


『あなたは、いつも誰かに狙われていますか。①はい、②いいえ』


 特に狙われていないと思うので「②いいえ」にチェックする。


『あなたは、今、好きな人がいますか。①はい、②いいえ、③わからない、④その他』


 こんな設問で何を調べるのだろう。ちょっと恥ずかしかったが、「①はい」にチェックする。


『あなたの恋愛対象は、次のうちどれですか。①男性、②女性、③両性、④その他』


 その他って何だろう。「②女性」にチェックする。


『あなたが性的興奮を感じるのは、次のうちどれですか。①……』


「す、すみません!」


 勇太は思わず立ち上がると、会議室に待機するスーツ姿の女性に聞く。


「これって、全部答えないといけないんですか? 質問がちょっと……」


 スーツ姿の女性が申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさない。正確な調査のために、必ず全部答えて欲しいの。無記名だから安心して正直に答えてね」


 たしかに、用紙には氏名欄がない。勇太は仕方なく席に座ると、しぶしぶ回答した。設問の後半は、やたら性に関するものが多く、辟易へきえきした。


 何とか全部回答した勇太は、用紙を茶封筒に入れると、スーツ姿の女性に手渡した。茶封筒には「内閣官房」と印刷されていた。


 スーツ姿の女性が笑顔で勇太に声を掛ける。


「お疲れ様。これですべて終了よ。今日は協力してくれて本当にありがとう。検査結果等の関係で連絡するかもしれないんで、名刺を渡しておくわね」


 勇太は、女性から名刺を受け取った。名刺には「内閣官房副長官補づき 参事官補佐 高山たかやま真衣まい」と、携帯電話番号だけが書かれていた。


「お疲れ様でした。それでは失礼します」


 勇太は、名刺を鞄に片付けると、女性に挨拶をして会議室を出た。


 帰りの電車の中で、無記名の検査なのに連絡することなんてあるのだろうかと、ふと気になったが、疲れていたのでいつの間にか忘れてしまった。

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