第2話 恋愛相談

「お疲れ。夏休み初日から夏期講習なんてダルいよな……ん? 勇太、何かいいことでもあったのか?」


 翌日、金曜夕方の塾。夏期講習が終わり、筆記用具を片付けていた勇太に、日向ひゅうが俊介しゅんすけが声をかけてきた。


 俊介は、勇太の中学校からの親友だ。高校も同じでクラスも一緒だ。


 学内トップクラスの成績で、スポーツ万能。高身長で陽気なイケメンだ。しかも家は大金持ち……勇太とは住む世界が違うという感じだが、不思議と気が合った。


「うん、ちょっとね……」


 そう言ってリュックを背負った勇太は、一瞬考えてから俊介に聞く。


「ねえ、俊介ってモテるでしょ? ちょっと相談に乗って欲しいことがあって」


「勇太がそっち方面で相談なんて初めてだなあ。いいぜ」


 俊介が笑顔で快諾した。



 † † †



「勇太が告白するなんてなあ。てっきり、そういったことには興味がないんだと思ってたよ」


 駅前の喫茶店。勇太から話を聞いた俊介は、アイスコーヒーを飲みながら驚いた様子で言った。


「そんなことはないけど、まさか自分が一目惚れするとは思ってなかったよ。でも、結局、告白にはOKもらえなかったし」


 勇太が苦笑しながら答えると、ミックスジュースを飲んだ。


 俊介がアイスコーヒーをテーブルに置くと、笑顔で勇太に話しかける。


「でも、その女の子と夏休み中に遊びに行く約束したんだろ。凄い進展じゃないか」


「それなんだけど、まだ具体的な日時は聞いてなくて……どうしたらいいと思う? あんまりガツガツ聞いたら嫌われちゃうかなと思って」


「男だろ、ガツガツいけばいいんだよ。今晩にも聞いてみな?」


「そ、そんなものかなあ。大丈夫かなあ」


「大丈夫だって。遊びに行こうって言ったのは向こうなんだろ? それならこっちから誘わないと失礼だと思うぜ」


「そ、そっかあ……ねえ、誘うとして、どこがいいと思う?」


 深刻な顔をして聞く勇太に、俊介が腕組みをして答える。


「うーん、そうだなあ。その女の子次第だろうけど、ベタなのは映画かな。そのあとカフェでおしゃべりでもすればいいんじゃない?」


「なるほど、ありがとう!」


「いいってことよ、応援してるぜ! ちなみに、その女の子って誰なんだ?」


「ふふ、もし付き合うことができたら教えるよ」


 興味津々の俊介に、勇太は悪戯いたずらっぽく笑った。



 † † †



「お帰り勇太。明日って夏期講習あるの?」


 帰宅した勇太に、母親が聞いてきた。勇太が靴を脱ぎながら答える。


「明日? この土日はないよ」


「良かった。さっき学校から連絡があって、国が全国の高校生の健康状態を抽出調査してるらしいんだけど、たまたま勇太が当たったんだって」


「それで、急だけど明日健康診断を受けて欲しいって言うのよ」


「ふーん、分かった」


「ほんと、受験生の貴重な1日を奪うなんて、国は何を考えてるのかしらね」


 母親は、少し怒った様子で台所に戻って行った。


 夕食後、風呂を済ませて自室に入った勇太は、スマホのアプリを開いた。俊介の言葉を信じ、勇気を振り絞って、エマにメッセージを送った。


『明後日の日曜日、もしよければ映画でも観に行かない?』


 すぐに既読になった。勇太は急に不安になった。


 ガツガツいくのが許されるのは、俊介がモテるからではないか。自分の場合、嫌がられたらどうしよう……


 それに、焦って最初から映画に誘ってしまった。どこに行きたいか先に聞けば良かった……


 勇太は、不安と後悔にさいなまれながら、エマからの返信を待つ。既読後の数分がとても長く感じられた。


 エマから返信があった。


『日曜は空いてるよ。映画いいね。面白そうなのある?』


 俊介、ありがとう! 疑ってゴメン!


 勇太は心の中で俊介に何度もお礼の言葉を言いながら、慌てて上映中の映画を調べ始めた。

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