【思想】すべての人が生き残るための最小にして最大のルール

晋子(しんこ)@思想家・哲学者

人類の結論。それは『殺さない』という世界の約束

人類は長い歴史の中で、数えきれないほどの思想や宗教を生み出してきた。それは、人がどう生きるべきか、どうすれば正しく在れるのかを問い続けた証でもある。しかし残念なことに、その多くは「自らの思想や宗教のためなら、他者を傷つけても構わない」という危険な側面を持ってきた。平和や愛を語りながら、異なる存在を排除し、時には殺すことすら正当化する――その矛盾が、戦争や迫害を繰り返す原因になってきたのだ。


だが、本来思想や宗教とは、人を守るためにあるはずである。他者を傷つけるためではなく、互いの安全と尊厳を保証するためにあるべきものだ。人類にとって本当に必要な思想とは、壮大な神話や権威の裏付けではなく、ただ一つの単純な原理に基づくものである。


それは「誰も傷つけない」「誰も殺さない」という原理だ。


この思想は理想論ではなく、人間が生き延びるために不可欠な最低限の条件である。どれほど経済が発展し、科学が進歩しようとも、人が互いに殺し合えば文明は崩壊する。核兵器のボタンを押すのも、人を刃で突き刺すのも、最後に行為を決めるのは人間自身だ。だからこそ、文明の存続に必要なのは「誰も殺さない」という徹底した倫理である。


人類の思想史を振り返れば、この原理に近づこうとした試みは数多く存在した。

キリスト教は「人にしてもらいたいことを、人にもしなさい」と説き、仏教は「自分が望まないことを他者にしてはならない」と語った。イスラム教においても「命の尊厳」は強調され、ユダヤ教でも「殺すな」という戒律が存在する。ガンディーは非暴力を掲げ、カントは「人間を決して手段として扱うな」と断言した。つまり、人類は繰り返し「殺さない思想」に辿り着いてきたのだ。


しかし同時に、それぞれの思想や宗教は「内」と「外」を分ける壁をつくってしまった。仲間内には慈愛を示しても、外の者に対しては排除や攻撃を許してしまう。ここに最大の問題がある。もし思想が「内」と「外」を区別し続ける限り、世界に平和は訪れない。だから人類にとって必要なのは、どんな国籍や宗教や思想を持つ者にも等しく通じる原理だ。


その原理は難しい哲学用語で語る必要はない。シンプルで直感的な言葉で十分である。


「私はあなたを殺さない。だからあなたも私を殺すな」


これこそ、人類にとって必要な思想の核心だ。翻訳を必要としない。誰にでもわかる。子どもでさえ理解できる。宗教や文化の違いを超えて、すべての人間に突き刺さる言葉である。


この思想は、暴力を肯定するどのような教義よりも強い。なぜなら、それは人間が生き延びるための最低条件だからだ。もし全員がこの約束を守るなら、戦争は不可能になり、テロも虐殺も成り立たなくなる。互いに殺さない世界は、決して夢物語ではなく、人類が生きるための必然的なゴールである。


もちろん、人類は弱い。欲望や憎しみから、互いに傷つけ合うことを選んでしまうこともあるだろう。しかし、それでも語り続けなければならない。何度でも、時代が変わっても、繰り返し訴えなければならない。なぜなら、この思想は人類にとって「選択肢の一つ」ではなく、「生き残るための絶対条件」だからだ。


思想は多様であっていい。偏りや個性があってもいい。人は自由に考え、表現することができる。しかし、その偏りが「暴力や殺人」を正当化する瞬間、それは絶対に悪である。その一線を超えない限り、人類の思想はどれほど自由であっても構わない。


だからこそ、人類に必要な思想は、最小にして最大の倫理である。難解な理屈を超え、誰もが理解できる単純さを持ちながら、全ての思想や宗教を超える強さを持つ。


その結論は、たった一つの言葉に集約される。


「私はあなたを殺さない。だからあなたも私を殺すな」

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