第6話:A Hazy Shade of Winter


ひよりは再び孤独と絶望の淵に突き落とされた。

マスターとさおりは依然として行方不明のままで、信じようとした瑠輝也もまた、宵藍というもう一つの顔を持っていた。

彼女の周りにいる誰もが、二つの顔、二つの真実を隠しているように感じられた。


セシリアの薬局も、明星が場所を把握している限り、もはや安全な場所ではなくなっていた。

それにセシリアの開発をこれ以上、邪魔することもできない。


もはや向かう先はなかった。

街をさまよい、疲労と絶望に苛まれるひより。


その時、彼女の目の前に救世主が現れた。


【愛】「ひより!」


その声に振り向くと、車椅子に乗った愛と、彼女を支える錦晃生が立っていた。

愛の顔は以前のコソ・コグニートの副作用に苦しんでいた頃とは見違えるほど、穏やかで明るかった。

しかし、彼女の足はまだ不自由なままだ。


【ひより】「愛ちゃん……錦くん……」


ひよりは、言葉を失った。

愛の回復を喜ぶ気持ちと、愛に裏切られた過去が蘇り、どうしても近づくための一歩が踏み出せない。

それは最近の出来事もきっと関係しているのだろう。


愛はそんなひよりの気持ちを察して、静かに語り始めた。


【愛】「ひより、謝っても許されるとは思ってない。でも、今の私なら少しはひよりの力になれると思うの。手伝わせてくれる?」


愛は、脳や身体能力改善のため、セシリアが改良して開発した機能回復のためのナノマシンで治療を進めていた。

その威力は驚異的で、まさに再生医療を超越した回復を見せていた。


さらにその治療の過程で、愛はナノマシンの信号を読み取ることがてきるという、ある意味、副次的な能力まで得ていたのだ。

それにより、体内にナノマシンを入れた人物に気づいたり、そのナノマシンとの対話ができるという。


【愛】「ひより、良く聞いて!私はナノマシンが体内にある人、そしてナノマシンが何をしているのかが分かるの」


【ひより】「治療の成果があったのは良かったけど、それは愛にとっては、かえって負担なんじゃない?」


【愛】「正直、複雑な気持ちになることもあるわ。でも、この力のおかげでひよりの体に仕込まれたナノマシンにも早めに気づけたの」


【ひより】「え!私の身体にナノマシンが!」


【愛】「心配しないで。セシリアに頼んですぐに無力化してもらったから。ただ、誰かがひよりの記憶を抜き取ろうとしていたみたい。心当たりがあるでしょ?」


【ひより】「…ありがとう。たしかにそれで説明がつくことがあるわね…」


【愛】「そしてあなたの周りにクローン生成された人物がもう一人いるの。あなたが良く知る人よ」


愛の言葉に、ひよりの心臓が激しく脈打った。

愛がその能力を得た理由、そして彼女が語る真実。

それは、ひよりが心の奥底で感じていた不安を、確信へと変えるものだった。


セシリアもひよりに電話をかけ、こう告げる。


【セシリア】「ひより、そちらに行けなくてごめんなさい」


【ひより】「いえ、愛のために、そして私に仕込まれたナノマシンにも対処してくださって、ありがとうございます…」


【セシリア】「愛の治療のためのナノマシンの改良が功を奏した形ね。全く何を信じて良いか分からないわよね…」


【ひより】「最近色々あり過ぎて、頭ではなんとなく分かっていても、心が追いつかなくて…」


【セシリア】「誰だってそうよ。でも目に見えるものだけに心を奪われちゃダメ。私も今、新たな問題に向き合って心が折れそうになることもあるけど、きっと実現させてみせるから!」


【ひより】「やっぱりセシリアさんはすごいや!私も『心の目』で向き合わなくちゃ!」


【セシリア】「そうね、そろそろ現実と向き合う時かもしれないわね。あとは、ひよりの覚悟と決意だけよ。あなたが信じる人は、みんなあなたの味方よ!」


【ひより】「ありがとう!これで私の心の目にも、信じる人と疑うべき人たちの姿が浮かんできた気がします!」


ひよりの心の中には、ある一つの仮説が成り立っていた。

しかし、まだ認めたくない気持ちとの間で揺れ動いていた。

彼女の知らないところで、すべての歯車が動き始めていた。


それでも、ひよりは一人ではなかった。

愛と錦、そしてセシリア。

彼女を支える者たちがいた。

彼らの存在が、ひよりに再び立ち上がる勇気を与えてくれた。


【ひより】「愛ちゃん……私、どうすればいい……?」


ひよりがそう尋ねると、愛は優しく微笑んだ。


【愛】「大丈夫、ひより。私たちも一緒だから」


ひよりは、愛の言葉に涙を流した。

絶望の冬の中に、確かに希望の光が差し込んでいた。


(第6話 終)

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