第2話:America
ひよりの日常に、かぐやと明星の存在はすっかり溶け込んでいた。
かぐやと明星はクラブでの仕事前に喫茶店に顔を出し、たわいもない話をしたり、荒れ放題になってしまった喫茶店の片付けを手伝ってくれた。
ひよりは、彼女と過ごす時間の中に、どこか懐かしい、そして温かいものを感じ始めていた。
そんなある日、ひよりが掃除をしていると、明星が店を訪れた。
彼はいつもと同じ、クールでどこか本心を読ませない笑みを浮かべている。
【ひより】「あれ、今日はかぐやさんは一緒じゃないんですね」
【明星】「ええ。彼女は少し疲れているみたいで。代わりに俺が来ました」
そう言いながら、明星はカウンターに座った。
彼はひよりにマスターのこと、そしてコソ・コグニートを見破った方法などを、以前よりもさらに深く聞き出そうとする。
【ひより】「そういう話は、直接マスターに聞いてください。私にはよくわからないので」
ひよりは話をうまく逸らし、まずはお母さんに会ってもらいたいと告げる。
明星は何も言わずに微笑むだけだった。
それから数日後、さおりが公安から戻ってきた。
マスターの弁明のため公安へ行ったはずなのに、疲れた様子で一人、ひよりの前に現れた。
【ひより】「お母さん!マスターは?」
【さおり】「…マスターは、まだなの。でも、私が必ず助け出すから、心配しないで」
さおりの顔に、以前のような明るい笑顔はなかった。
ひよりは、マスターの安否と同時に、かぐやが本当に双子の姉なのか、さおりに問いただしたい気持ちでいっぱいだった。
しかし、そのことを聞くと、またさおりが自分の前から姿を消してしまうのではないかと不安で、どうしても切り出すことができない。
そんなひよりの様子を察して、さおりは静かに語り始めた。
【さおり】「ひより…実は、あなたには双子の姉がいるの」
【ひより】「え、そのことをどうして今?お母さん、やっぱり…」
【さおり】「あなたたちを産んだ後、すぐに佐伯の使いの者が病院にやってきて、無理やりかぐやを連れ去ったの。その後必死で探したのだけど、彼女はアメリカにいたみたいで、私は…見つけてあげることができなかった…」
ひよりは、かぐやが言っていたとおりだったと知り、驚きと同時に安堵した。
ひよりは、かぐやが語っていた朝顔食堂でのハンバーグの思い出や、二人で一緒に暮らしていたこと、舞踊や格闘技を教わったことなどを話す。
【ひより】「かぐやは、お母さんと一緒に暮らしていたって言ってたよ。ハンバーグも一緒に食べたと…」
【さおり】「それはあの明星という男があなたを信用させるために、かぐやに嘘を言わせただけよ。あの男は信用しちゃダメよ」
さおりの声には、明星への強い不信感がにじみ出ていた。
【ひより】「どうしてそんなこと…」
【さおり】「わからない。ただ、直感的に感じるの。彼からは、ただならぬ危険な匂いがする」
ひよりは、さおりの言葉に戸惑った。
かぐやと明星は、自分を助けに来てくれたのではないか。
なのに、どうして…?
そんな時、ひよりに電話が掛かってくる。
電話先の声は森山刑事だった。
【森山刑事】「俺がなんとか公安の上層部に掛け合って、便宜を図ってもらった。今なら、マスターと話ができる」
【ひより】「森山さん、ありがとう!このお礼はきっとどこかで…」
ひよりは、森山の言葉に胸を撫で下ろした。
【森山刑事】「ああ、借りは返してもらうさ。それよりマスターと話した方が良い。今、代わるよ」
電話を代わると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
【ひより】「マスター、大丈夫?ごはん食べられてる?」
【マスター】「ああ、メシはな。ただコーヒーはアメリカンばかりで、深煎りのモカが飲めないのはつらいな。あんなものはコーヒーのふりをした、ただのニセモノさ」
マスターのいつもの調子の言葉に、ひよりはホッとした気持ちを隠して、呆れたふりをした。
【ひより】「コーヒー飲めるだけでも感謝しなさいよ!こっちは大変過ぎてコーヒーどころじゃないんだからね!」
そして、ひよりは意を決して、かぐやの存在や最近の出来事、そして明星に留守を守るように頼んだのかを手短に尋ねた。
【ひより】「マスター、かぐやっていう私の双子の姉がいるって、本当?」|
【マスター】「あ、ああ…」
【ひより】「それで、明星っていう男に、私のナイトになってもらうように頼んだの?」
マスターは一瞬沈黙した後、静かに答えた。
【マスター】「たしかに明星
【ひより】「え…?どういうこと?」
ひよりは、マスターの言葉に愕然とした。
マスターはかぐやが話した記憶の経緯を事細かにひよりから聞き出した。
それを聞いたマスターは納得したかのように、こう問い返した。
【マスター】「で、さおりは病院でかぐやを連れ去られたと言ったんだな?そうか…」
マスターはそれ以上は何も語らなかった。
通話が切れた後、ひよりはただ呆然と電話を握りしめていた。
その夜、留置所の中でマスターはひそかに、ひよりとさおりと3人で撮った写真を眺めていた。
【マスター】「君たちを再び失ったら、俺はどうして良いかわからない…」
そう呟くマスターの瞳に、深い闇が宿っていた。
それは、彼の言葉を鵜呑みにしたひよりには、知る由もないことだった。
(第2話 終)
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