第8話

ぼくは左手を止めることなく、声を張り上げた。

「なにを根拠に?! 左手ですか?! それとも……このチンコですか!?」


車両が爆笑と悲鳴の混沌に包まれる。


若い女性は怒りと笑いで顔を歪めた。

「ちょ! スリ以前にこいつ捕まえてや、刑事さん!……ちょっとワロタけど」


学生は小さく息をのんで、

「え、えぐすぎる……」とつぶやく。


サラリーマンは口に手を当て、笑いをこらえきれない。

老夫婦は三度目の「最近の若いモンは……」を重ねる。


刑事は冷静な顔を崩さず、しかし言葉を選んだ。

「……しかし、証拠が――」


若い女性は再び声を荒げた。

「証拠て! めちゃくちゃ触っとるやんけ!!💢」


ぼく(茂雄)は心の中で叫んだ。

――あかん、完全に窃盗事件ちゃう! 痴漢現行犯劇場やん!!


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