第4話

彼女はスマホをいじりながら、爪を噛みそうな勢いで足をトントンと叩いている。


「そちらのお嬢さん、少しよろしいですか?」


女性は一瞬視線を上げ、険しい表情で答えた。

「はぁ?! さっきも言いましたけど、仕事で急いでんねん! 財布とか知りませんし!」


車両の空気は一瞬、張りつめた。

学生たちは視線を落とし、互いにちらりと彼女を見つめる。

サラリーマンも無理に笑顔を作り、緊張を誤魔化そうとしていた。


……そして私は、茂雄として、吊り革を握りしめながら、このただならぬ空気を全身で感じ取っていた。


刑事が腕を組み、鋭い目で若い女性を見据えた。

「あなた……黒のTバックですね?」


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