ネジレズク

マロン64

三題噺 トタン、ミミズク、ねじれ


 日が燃ゆる夏真っ盛りの熱い城田寺村に言葉をしゃべるミミズクがいた。

 名前は捻じれ足を持つミミズクなのでネジレズク。

 真夏でセミと虫の声がみーんみーんと響く中、ネジレズクは木の枝に掴まっていた。


「ネジレズク、遊ぼーよー」

「お前の足、なんでねじみたいに捻じれてるんだよ~」

「……」

「ネジレズク、全然喋らなくなっちゃった」

「つまんね~」


 子供たちが木の下からキャッキャと笑いながら逃げていく。

 ネジレズクは人間のようにフンと鼻を鳴らしながら眠りにつこうとする。

 だが、ネジレズクは幸せであった。なぜ彼の足は捻じれてしまったのか。

 語っていこうと思う。そのきっかけになったのは一人の少女との出会いだ。

 彼女は花守 美由紀。不思議な能力を持つ女の子だ。



 **



「トタンの屋根に乗っている大きな鳥さんは誰ですか?」

 ネジレズクは驚いた。何気なく寄った途端の赤い屋根の上で一休みしようとしていただけで部屋の中にいる人間に気づかれるとは思わなかったから。

「これはこれは、城田寺村の喋る大ミミズク様ではないですか」

「そうじゃ。ワシは大ミミズクじゃ」

「これは失礼しました。大ミミズク様。私は花守美由紀です」


 ネジレズクは何故屋根の上にまで声が届くのか疑問を持ち、実際の美由紀を見てみようと窓に止まった。すると彼女は両目に眼帯を巻いていて、実際には声を発していないことに気づいた。


「これはどうしたものじゃ?」

『失礼しました。私は生まれつき目が見えず、声も発することができません。しかし何故か超能力のような千里眼とテレパシーが使えるのです』

「わしも何故か人間の声が喋られる。嫌われることも多いのじゃ」

『なら私も同じですね。これからおしゃべりしませんか?」


大ミミズクと花守美由紀は声とテレパシーでおしゃべりをするようになった。

好きなものはミミズと虫だと言うと、人間は毛嫌いすると話すと、美由紀は何故人間はそれを嫌がるのでしょうか? と聞き返す。

大ミミズクは美由紀が人間とほとんどしゃべったことがないからだとわかるようになってきた。


美由紀は両親にも気味悪がられ、超能力を使えるようになってからは一切会話がないと言っていた。

それに村人たちは美由紀を気味悪がっているともいう。千里眼とテレパシーが使えるから思っていることがわかってしまう。

「美由紀、それは辛くないのか?」

『フフフ、大ミミズク様は優しいのですね。いいのです。私がこんな能力を持ってしまったから行けないのです。それに手に何かを持つとそれは捻じれてしまうのです。両親にもそれをやりかけてかかわりが無くなりました』


 窓から見た美由紀は儚げに笑っていた。

 その微笑を見た大ミミズクは何と人間はおろかな生きものなのだと思った。

 ここに咲き誇る大きな花を臭いものとして蓋をする。

 ならばわしが美由紀を楽しませてやろうと決心した。


 それからネジレズクは美由紀に珍しいものを見せてやろうと遠出の狩りをして、虫ではなく、花を取ってくるようになった。

 彼女は千里眼でそれをいつでも見れるが、ミミズクが窓に置くと、実際に触って嬉しがるからだ。


 それを続けていたある日の夜。いつも通り綺麗な花を持ってきた大ミミズクは美由紀の家に近づいて異変に気付く。

「何じゃ! 美由紀の家が燃えている!」


 大ミミズクは美由紀の家につくと窓で美由紀の部屋をつつく。


『どうしました? 大ミミズク様?』

「美由紀! お主の家が燃えている。早く窓から逃げるんじゃ」

「そうですか」


 なぜか花守美由紀は笑っていた。大ミミズクは何故じゃ? と疑問に持つ。

 美由紀は笑ってこういった。


『私は千里眼で未来も見えます。こうなることは知っていました』

「それならなおさら早く逃げんか!」

『いいのです。誰からも必要とされていませんから。ここで燃え尽きた方が両親にとってもいいはずです』


 大ミミズクは激怒した。誰からも必要とされていない?

「わしは美由紀のことを想っている。ならばいいじゃろう。ワシの覚悟を見せてやる」


 大ミミズクは空高く飛翔すると美由紀の部屋の窓ガラスに突っ込む。

 大ミミズクはひびが入るまで何度も何度もぶつかる。


「やめてくださいまし。私はもう……」

「ならば、窓を開け! それをしない限り、何度でも窓を割るためにぶつかろう」

「わかりました。わかりましたから」


 美由紀はわけもわからず窓を開けて大ミミズクの蛮行を止める。

「美由紀、わしの足に掴まれ! それから屋根から跳んでいる間にわしが羽ばたく」

「いやです! 大ミミズク様の足がねじれてしまいますわ」

「フフフ。それもいいじゃろう。ワシはお主を救うためなら、足がねじれてもいい。ネジレズクと呼ばれるのもいいかもな!」


 美由紀は恐る恐る大ミミズクの足を握る。足がねじれて、ミミズクの足に痛みが走る。

 だがそれでもいい。美由紀を救うためだったら大ミミズクは何回ねじのように捻じれても美由紀を救うと決めた。


 満月の夜に大ミミズクの翼が羽ばたき、捻じれていく足の痛みさえ笑いながら美由紀を空に羽ばたかせた。


 満月に光を浴びる一話と少女はまるでおとぎ話の一部だと村人にささやかれた。

 美由紀の両親は火事を意図的に起こしたのではないかとうわさされ、村を出ていった。

 大ミミズク改めネジレズクは、少女を洞窟まで案内し、甲斐甲斐しく世話をしている。


「ネジレズク、何で喋らなくなったんだ?」

 村人は不思議がる。だがそれはネジレズクが心の中で美由紀といつも話しているからだ。

 

これも不思議な話である。ネジレズクは幸せであった。


END

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