第7話 彩の支え

その過程で、俊介は彩と話す時間が増えた。

 「大変そうですね。でも、なんだか楽しそう」

 「楽しそう……に見える?」

 「はい。前はどこか自信なさそうだったけど、今の佐伯さんは違う気がします」


 彩の言葉は、俊介にとって鏡のようだった。

 自分ではまだ変わった実感が薄くても、他人からそう見えるなら――それは確かに成長の証なのだと思えた。


 帰り道、ふと気づく。

 以前ならただ家に直行してテレビをつけていたが、今は彩との会話を反芻しながら歩く時間が心地よかった。

 自分を少しでも前向きにしてくれる存在が、こんなに近くにいたのだと気づいた。


 翌日、会議の準備で慌ただしくしていると、彩がひょいと顔を出した。

 「このグラフ、色を変えたらもっと見やすいと思います」

 「なるほど……気づかなかったな」

 「小さなことですけど、意外と大事ですよ」


 彩は資料を手際よく直しながら、柔らかく笑った。

 その姿に俊介は、不思議な安心を覚える。まるで、背中を押してくれる石川さんの声と、横で支えてくれる彩の存在が重なって、彼を前に進ませているようだった。


 会議が終わったあと、先輩の一人がふと呟いた。

 「佐伯くん、最近ほんと頼もしくなったな。彩さんと組むといい感じだよ」


 その一言に、俊介の胸は熱くなった。

 頼られることも、誰かと肩を並べて認められることも――かつては遠い世界の話だった。だが今は違う。仲間の中で、自分の居場所が少しずつ形を得ている。


 そして気づく。

 ――自分はただ支えられるだけではなく、いつか彩や仲間を支えられる存在になりたい、と。


 会議を終えた帰り道、彩と同じ方向の電車に乗ることになった。

 「佐伯さんって、いつも帰りはこの時間なんですか?」

 「いや、最近は……仕事が増えて遅くなることも多いけど」

 「じゃあ、私もたまにご一緒できますね」


 彩は屈託なく笑った。それだけの会話なのに、俊介の胸は妙に高鳴った。


 電車の窓に映る彩の横顔を、思わず盗み見る。

 ――ただの同僚。そう思う一方で、「頼りになる人」としての存在感が心の中で少しずつ大きくなっていた。


 翌日、彩が机にコーヒーを置いた。

 「昨日遅くまで作業してましたよね。今日は眠そうだったので」

 「……彩さん、ありがとう」


 不意の気遣いに言葉を失い、ただ熱いカップを見つめた。

 その温かさは、忘れていた感覚を胸の奥にじんわりと呼び戻していくようだった。


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