第5話 小さな挑戦の連鎖

翌週、俊介は新しい案件の準備会議に参加していた。

部署をまたいで進めるプロジェクトで、資料作成や調整など細かな作業が山積みになっていた。


会議が終わるころ、上司が口を開いた。

「この調査資料、誰かまとめてくれるか?」


いつもの俊介なら、下を向いてやり過ごしていただろう。

だが、飲み会での彩の言葉が胸に残っていた。

――“本当はちゃんと周りを見てる人なんだなって”。


俊介は小さく息を吸い、手を挙げた。

「……自分がやります」


一瞬、場が静まった。だがすぐに上司が頷く。

「じゃあ、頼む」


実際に取り組んでみると、一人では難しい部分がいくつも出てきた。

俊介は意を決し、同僚や後輩に声をかけてみた。


「このデータ、佐々木さんの方で確認できますか?」

「この部分は君の知識が必要なんだ。手を貸してくれないか」


最初はためらいがあったが、返ってきた声は思った以上に前向きだった。

「いいですよ」

「ちょうど調べてたところです」


気づけば、俊介の机の周りに小さな輪ができていた。

誰もが自分の持ち場から情報を持ち寄り、議論し、形にしていく。

それは、ただの分担作業ではなく“信頼を預け合うやりとり”に変わっていた。


完成した資料は、上司から「分かりやすい。助かった」と評価され、会議でも大いに役立った。

仲間からも「佐伯さんがまとめてくれて助かりました」「またお願いしますね」と声をかけられ、俊介は不思議な充実感を覚えた。


会議後、彩が笑顔で近づいてきた。

「佐伯さん、やっぱり頼りになりますね。皆さんも自然に集まってましたし」


「……いや、たまたまだよ」

照れくささから視線を逸らす俊介に、彩は首を振った。

「たまたまじゃないと思います。佐伯さんが声をかけたから、皆さんも動いたんですよ」


その一言に、俊介の胸の奥がじんわりと熱を帯びた。

――一人で黙々とやるだけが仕事じゃない。

仲間と力を合わせることで、初めて見える景色がある。


その実感が、俊介の中で確かな次の一歩へとつながっていった。

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