第4話 出会い

その週の金曜、俊介は珍しく会社の飲み会に顔を出した。

いつもなら断って一人で帰るのが常だったが、今日は違った。

――人との関わりから逃げてばかりでは、何も変わらない。そう思ったのだ。


居酒屋の隅の席で、俊介は隣に座った女性社員と話を始めた。

総務に配属されたばかりの後輩、佐々木彩。明るい笑顔が印象的な女性だった。


「佐伯さん、前から気になってたんです」

「え?」

「会議で発言されたときのこと。正直、びっくりしました。ずっと静かな人だと思ってたけど、本当はちゃんと周りを見てる人なんだなって」


俊介は一瞬、返す言葉を失った。

胸の奥が、かすかに熱を帯びる。

“変化を認めてもらう”――そのささやかな事実が、これほど心を揺らすとは思わなかった。

彼の中で長く淀んでいた時間を、彩の笑顔がそっと押し出していくように感じられた。


その後も会話は途切れることなく続いた。

彩は新人としての戸惑いや失敗談を笑いながら話し、俊介も思わず自分の新人時代の体験を語っていた。

気づけば、彼の声にはいつもの硬さがなく、どこか優しさがにじんでいた。


「佐伯さんって、意外と話しやすいんですね」

彩の一言に、俊介は照れくさそうに笑った。

――誰かと“自然に笑える”なんて、いつ以来だろうか。

忘れかけていた感覚が、胸の奥で温かく蘇るのを感じた。


その夜、帰り道を歩きながら俊介は思った。

石川さんの言葉が、自分を動かし始めたのは確かだ。

だが今は、彩の存在がその歩みをさらに押し広げてくれている。


人との関わりを避けてきた自分。

だが、もしその関わりの中で誰かを支え、また支えられることができるのなら――。

心の奥に、かすかな予感が芽生えた。

それはまだ言葉にはならない。けれど確かに、次の一歩へとつながる力だった。

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